第11話 妹が憎い(※sideアレイナ)

 自分が1つ年下のミリーに劣っていることが、どうしても受け入れられなかった。

 この国一番の由緒あるフィールズ公爵家の長女なのに、まさかこの私を差し置いて妹の方がエリオット殿下に嫁ぐなんて、絶対に受け入れられなかった。そんなの恥ずかしすぎるし、何より……、殿下を誰にも渡したくない。


(大丈夫…、まだ周囲が勝手に言っているだけ。お父様やお母様は私の希望を分かってくださっている。私の努力をきっと認めてくださるはず。絶対に絶対に、ミリーに勝ってやるわ!あんな生意気で、人のことを見下してくるようなヤツには負けないわ)


 実際、ミリーは才女と言われていて、全ての学問に置いて天才的な才能を発揮していた。語学だけでなく、芸術や文学、周囲の国々の文化や歴史まで、何にでも手を出しては次々に習得していった。私は必死でその後を追った。ミリーが習得したことは私も覚えなくてはと、何年もがむしゃらに勉強ばかりしてきた。



 ところが─────



 学園に入学する、約1年前。ついに両親から宣告された。


「…アレイナ。お前なりに努力してきたことは認めるが…、これ以上王家への正式な返事を引き延ばすわけにはいかない。酷なことを言うが、どう考えてもミリーの方がお前よりはるかに優秀なのは間違いない。王太子殿下の元へ嫁ぐのは、ミリーだ。明日国王陛下にその旨申し上げてくる」

「…………っ!!い、いや、まっ……」

「お前にはベイル伯爵家の三男と婚約の話をまとめる。うちに婿入りしてもらうことになるから…」


 目の前が真っ暗になった。嫌。嫌。絶対に嫌!!


「何でですかお父様!!私の方が姉なのですよ?!私だって……、私だって、もっともっと努力できます!!私は……っ、こ、子どもの頃からずっと決めていました!エリオット殿下の元に嫁ぐのだと……!お願いします!お願いですから…っ、」

「おっほほほほほほ!惨めね~ぇ、お姉様」

「っ?!」


 振り返ると、両親と私しかいないと思っていた居間の入り口にドアを開けてミリーが立っていたのだ。その表情はとても意地悪で、ニヤニヤといやらしく笑っていた。

 ふてぶてしく腕組みをしたまま、妹は私に言った。


「見苦しいわよ。あなたにはね、才能がないのよ。いい加減認めなさいよ。姉だから姉だからって、昔から何かにつけてそう言っていたけれど、たった1つ私より歳が上だからって、それが何なの?能力はご自分の方が何年分も劣るじゃないの。私から見たらあなた、まだ幼児のような脳みそですわよ。おーーっほほほほほほほ!!」

「ミリー!止めないか!」


 父が恐ろしい剣幕で妹を諫めるが、底意地の悪い妹はまだ私を馬鹿にし足りないようだった。


「潔く引いてちょうだい。あの、あなたがだぁい好きなエリオット殿下は、私の夫になるのよ。あなたより何倍も賢くて、全てにおいてあなたより秀でたこの私のね!ご安心なさって、お姉様。あなたの分まであのお方を大切にして差し上げますから。私とエリオット殿下、良き夫婦になりますわ。どうぞ遠くから指をくわえて見守っていてくださいませね。……ふ、……ふふっ、…うふふふふふふ」

「く…………っ!!あ、……あんた……お前……っ!!」

「ふふふふ…、……っ!きゃあぁぁっ!!」

「アレイナ!!よしなさいアレイナ!!」


 私は妹に飛びかかっていた。そうだ、もうこいつを殺してやるわ。こいつさえいなくなれば、私は殿下の妻になれる。

 錯乱した私は燃えたぎる怒りの中、そんなことを思った。

 母が呼んだ護衛たちが私を羽交い締めにしてミリーから引き剥がすまで、私はボロボロと涙を流しながら妹を押さえつけ、顔を引っかき、頭を無茶苦茶に殴り、首を絞めていた。




 それからおよそ、1年後。


 私はフィールズ公爵家の者が代々通ってきた貴族学園に入学したのだった。


 つまらない。貴族学園なんか入っても、もう何もやる気が出ない。私が両親に泣きついてエリオット殿下と妹との婚約を保留にしてもらっている間に、高位貴族の年頃の子息は皆婚約が決まっていた。そして私にはさえない伯爵家の三男坊があてがわれたのだ。変わり者の不細工だ。あんなのと結婚しなきゃならないなんて…。

 もう何かを勉強することに意味なんて感じない。だって私は、もう好きな人の元に嫁ぐことはできないのだから。どうでもいいような伯爵家の息子のために知識を蓄えて良き妻になろうなんて全く思えない。


(…この先の人生、地獄だわ……。どうにかできないの……?もう本当に、他の道はないの……?)


 そんな時だった。ふと、あいつらのことが目についたのは。




 入学式。前の席に座っていた女の、艶々で美しいピンクブロンドが私の記憶を呼び覚ました。





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