デッドエンド、リピーター

秋乃晃

3分前

 今から三分後に世界は滅亡する。


 しかし、その三分後に世界が滅亡するとて、このわたしに何ができるかといえば、特に何もない。だって、たったの三分だよ? ウルトラマンなら怪獣を倒してくれるし、カップラーメンなら「いただきます」ができるその三分間。わたしには、何もできない。


 ごく普通の女子高生なわたしに物騒なお告げを教えてくれたのは、これまたごく普通の身なりの(ボーダーのシャツに、ハーフパンツにスニーカーの)男の子だった。小学生だと思う。小学生だとしたらこの時間は登校しているべきじゃないかな。でも、その背中にランドセルが見えない。寝起きみたいなバサバサの髪型に、眠たそうな二重。それでも(若いっていいな)ほっぺたやくちびるは血色がよくて(触ってないけど)もちもちしているのが見てわかる。


 宮城きゅうじょうはじめを名乗る前に、その男の子は、わたしの顔を見てギョッとして「美華みかちゃん?」と知らない女の子の名前を口走った。


「わたしは美琴みことよ。人違いです」


 ほら、どいたどいた。行く手を阻まないでよね。おねえさんには初対面の男の子と悠長にお話ししている暇はないのだよ。なんせ学校に遅刻しそうなのだから。……見惚れていたわたしもわたしか。


「ぼくは宮城創、またの名を終止符ピリオド、そして、けど、美琴さんは何をするのかね?」

「……ネット情報の受け売り?」


 あれは昨日のことだったか、とあるアカウントのツイートが話題となっていた。アカウント名は『令和のノストラダムス』で、その内容は、今し方、創くんが言ったことと酷似している。


 ノストラダムスといえば、世紀末に地球の滅亡を予言した人として一世を風靡した――らしい。その時代にわたしは生まれていなかったから、どんだけ大騒ぎになったのかは知らない。というか、この『令和のノストラダムス』について「ねえねえ、見た?」って酒木さかきから話題を振られなければ、一生知らなかったかもしれないレベル。


「滅亡するのが本当のことだって、誰も信じてくれていないね?」

「わたしが?」


 うん、と頷く創くん。はて。わたしはごく普通の女子高生で、その、三分後の滅亡なんて今まさに創くんから聞いたばかり。三分後ってどこを起点としているのかすら、わからない。わたしと創くんの会話が始まってから三分なのだとしたら、もう、だいぶ、やばい。


「そんな、急に人類が滅亡するわけないじゃない。変なこと言ってないで、学校行ったら?」


 しっしっと創くんを払いのけて、わたしは登校を再開した。酒木に「登校中、変な男の子に会った」って話をしよう。わたしはちっとも興味ないけども、酒木は都市伝説とかクトゥルフ神話とかエスシーピー? とかにハマっている。創くんも、そういう話をするのなら、わたしではなくて酒木にしてくれればいいのよ。きっと身を乗り出して聞き入ってくれる。


「そろそろ三分経ったんじゃない?」

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