友達と推し

葵羽

第1話 谷口くんという男

「いちについて、よーい…」


 体育の先生の掛け声と同時に鳴らされたそのピストルの音。


「きゃーーー!頑張って~谷口くん!」



 学校一のイケメンとうたわれクラスメイトからはもちろん、全学年の女子をも虜にする谷口くんと呼ばれたその男の子は、たくさんの女子の黄色い声援が飛ぶ中、隣に並んだ3人の少年とともに一斉に駆け出した。



 高校最終学年の俺たちは、トラック半分の100mを走る。

 イケメンは去ることながら運動神経も抜群だった谷口は、これまで徒競走で1番以外とったことがなかった。

 そして今回も、クラウチングスタートで順調なスタートを切った俺は、最初の直線から最初のコーナーを迎えるまでの間にみるみるうちに加速していった。


「今年も谷口が1番かよ〜面白くねぇな〜」


 クラスの男子がつい本音を愚痴り出す。


 そして愚痴る男子を白い目で見る谷口くん推しの女子たち。


「ちょっとあんたたち!谷口くんが1位で何が悪いのよ!黙ってレース見なさい!」


「チッ。ちょっとあいつがかっこよくて運動できるからって調子乗んなよな!」



 レースは最後の直線に入った。

 先頭を走るのは谷口くん。他の子を寄せつけないこの圧倒的なスピード。誰もが今年もこのまま彼が逃げ切ると思っていた。



 しかし残り10mを切ったところで




 谷口くんがころんだ!?

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