『大学生活スタート 新入生に送る基礎から学べる数学入門』あの、教授。このテキスト全然入門書のレベルじゃないと思うのですが…

明石竜 

第1話

四月半ば、とある地方国立大にて。入学式やら新入生オリエンテーション

やら履修登録やらも終えて、いよいよ本格的に大学の講義がスタートした頃、

「このテキスト、まえがきには、高校数学から接続して学べるように初学者

にも分かりやすいように配慮した入門書って書かれてあるけど、いきなり飛ばし過ぎじゃねえ? イプシロンデルタ論法って何だこれ? 演習問題の答も

略ってなってるのもあるし」

 理工学部に所属する、とある一年生の学生の一人が、『大学生活スタート! 

新入生に送る基礎から学べる数学入門』と称された講義で使用する

テキストをざっと眺めて困惑気味に突っ込んだ。

 

「あのう、数学入門のテキスト。全然入門じゃないと思うのですが……

専門家向けって感じがしますけど」

 担当教授にそう伝えてみたところ、

「高校までの数学が完璧に理解出来てれば、特に問題なくついていけると

思いますよ。この大学に入れるくらいだから高校数学は完璧に身につい

てるでしょ?」

 教授は爽やかな笑顔でおっしゃる。

「いやぁ、全然そんなことないですよ。共通テストボーダー六割台だし、

二次の比率も低いし、高校数学たいして理解出来てなくてもこの大学

受かりますよ。俺みたいに」

「そっかぁ。まあ、頑張って」

 教授は朗らかな表情でエールを送るのであった。

 ちなみにテキストの著者でもあるこの教授、学部も院も東大卒の

理学博士だそうだ。

 東大卒の博士号持ちの人からすれば、簡単なことしか書いてないつもり

なんだろうな。

 学生は心の中で突っ込んでおいた。


 他に一年時に必修となっている物理学入門、有機化学入門、生命科学入門と

いった学部共通科目も、入門とは名ばかりのなかなかの難解な講義であり、

彼以外の受講生の大半も、単位取得に苦戦したのであった。


 〇〇の入門書というのは、その分野のプロ、専門家、研究者として

のスタートラインに立つための指南書であって、世の中の大半の人々に

はとっては理解が困難なものだというお考えで、入門書を著されて

いる方々も、数多くいらっしゃることだろう。


 

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