第50話 ママになっちゃった♡ シズ視点。

「シズ。シズ」


「ん〜今日はバイト休みだから……」


「何言ってるの? もう仕事の時間だよ。起きろ〜」


 アオイの声が聞こえる。体がユッサユッサ揺すられる。



 仕事? 仕事ってなんだ?



 目を覚ますと、すぐ目の前にアオイの顔が。



「あ、やっと起きた」



 あれ? もうアオイが起きてる? いつもなら僕が先に起きるのに。



「ん……っ」



 アオイに唇を塞がれる。突然キスされたことで頭の中が真っ白になってしまった。



「朝ごはんできてるよ」



 ベッドから起き上がって辺りを見回す。いつものアオイの部屋。だけど、壁には見慣れないスーツがかかっていた。




 テーブルを良く見てみる。そこに置かれている朝ごはんはトーストに目玉焼きにベーコン。サラダにフルーツとヨーグルト……え、こんなちゃんとした朝ごはん僕でも作らないんだけど。


「これ、アオイが作ったの!?」


 いつものアオイからは想像できない……料理あんまり得意じゃないのに……。


「? いつも作ってるじゃん」


 不思議そうに首を傾げるアオイ。


 いつも……? いつも朝ごはん作ってるのは僕だけど……。


 アレ? よく見たらアオイがちょっと違うぞ?


 見た目は幼女のままだけど、髪を後ろに結んで大人っぽい白のタートルネックを着てる。その姿だけ見るとなんだかすごく大人っぽい。


「そんなことよりさ。早く食べないと遅刻するよ〜?」


 アオイに促されるようにテーブルにつく。


 パンにバターを塗り、一口かじる。もちもちしてすごく美味しい。サラダもフルーツも全部美味しい。



 目玉焼きを食べていると、アオイがニコニコと僕を見ていることに気が付いた。


「ね、もうすぐ記念日だね」


「記念日?」


「もう! すぐそうやってトボけるんだから〜。オレ達の結婚記念日でしょ?」



「け、結婚!?」



「なんでそんなに驚くの?」


 結婚って……いつ、したんだ?


 頭をフル回転させるが何も分からない。


「あ、あのさ。記念日って……結婚何年目だっけ?」


「3年目だよ」


「そっか〜3年かぁ〜」


 3……年……。


 僕は記憶喪失になったのか? それともタイムリープでもした?


 僕の内心とは裏腹にアオイは嬉しそうな、恥ずかしそうな笑みを浮かべる。


「それでね? 実は、記念日に言おうと思ったんだけど……」


 アオイがお腹をさする。少し優しげな顔で頬を赤く染めながら。


 まさか、このシチュエーションって……。



「あのね。昨日検査に行ったんだけど……できてたよ」



「で……できてた!?」



 上手く言葉が出てこない。できてたって、え? え? そんなこと……え? まだ……いや、え?



「オレ……ママになっちゃった♡」



「ええええぇぇぇぇ!?」



 僕の!?



「嬉しくないの?」


 急に不安な顔をするアオイ。頭がグルグル回って全然上手く考えられないけど、父さんが昔言ってたことが頭をよぎる。


 そうだよ。まずは相手を心配させちゃダメなんだ。驚きはあっても嬉しいってまず伝えて、何も心配はいらないって安心させてあげないと!


「嬉しい……すごく嬉しいよ!」


 そうだよ。何を混乱してるんだ。覚悟を決めろ。アオイを心配させちゃダメだ。



「良かったぁ……オレ、ずっとシズとの赤ちゃんが欲しかったから……」



 涙ぐむアオイ。


 その顔がすごく愛おしく思えて、彼女を抱きしめた。



「僕……がんばるよ。絶対2人とも幸せにするからね」



「嬉しい」


 アオイは、涙を拭きながら微笑んだ。




 ……。




 …。





 ん……なんだか、体が重い。



 急にいつもの天井が見えた。



 あれ? 僕……アオイを抱きしめてたよな?



 辺りを見回す。壁にかかっていたスーツが無い。



「あれ? 夢……か」



 心臓がすごく脈打ってる。それだけ緊張してたってことか。


「ん〜」


 布団の中からモゾモゾする感覚がする。布団をめくると、アオイが僕に抱き付いていた。


「えへへ。シズぅ〜……スースー」


 いつものアオイ。さっきまでの大人びたアオイじゃない。安心したけど、ちょっとだけ寂しいと思う自分もいた。


「でも……」



 起こさないようにアオイの頭を撫でる。くすぐったそうに笑うアオイを見たら、なんだか胸の奥が暖かい気持ちになる。



「そういう未来も、いいかもな……」

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