第22話 なんだか幼くない? シズ視点

 講義が終わり、大学の通り沿いにある大型玩具店でカードゲームの構築済みデッキを買った。アオイが先日小学生が遊んでいるのを見てやりたくなったらしい。


 店を出たアオイが興奮したように飛び跳ねる。


「う〜!! 久々すぎてテンション上がるぅ〜!!」


「いつぶりだ? 中学以来だから4年? 5年ぶりくらいかな」


「シズは何デッキ買ったの?」


「僕は機械系のデッキかな。アオイは?」


「オレはね〜宝石モンスターのデッキ!」


「昔好きだったよなぁそれ」


「うん。だって最強モンスターのドラゴンがカッコいいし」


 白い袋を見て目を輝かせるアオイ。その姿に若干違和感があった。なんだか、いつものアオイより大分幼く見える。


「早くやろ〜!」


 アオイが走り出したのは駅とは反対方向。慌てて彼女を呼び止める。


「え!? どこいくんだ?」


「どこって? 部室だよ?」


「そんなにやりたいんだ……」


「いいじゃんかぁ! 部室の方が近いしぃ〜」


 涙目で走ってきて僕の手を引くアオイ。僕が戸惑って立ち尽くしているせいで体全体が45度くらいに傾いていた。


「やろうよぉ! 部室でカードしようよぉ〜!」


 アオイ、発言が子供になってるぞ……。


 目をウルウルさせるアオイに手を引かれ、部室へと向かった。



◇◇◇


 部室に入るなりカードを広げるアオイ。部室のPCで機関誌の執筆をしていた部長が頬杖をついた。


「もう! ここは神聖なオカルト研究会の部室なんだよ!? カードで遊ぶなんて……」


「う、う〜!!」


 涙目のアオイが部長を睨みつける。


「あ。蒼ちゃん…?」


「部長なんて嫌いっ!」


「えぇ!? 蒼ちゃん? 嫌わないでよ〜」


 アオイは顔をプイッと部長から背けると僕の後ろに隠れて来る。ホント今日のアオイどうしたんだろ? なんだかすごく幼いぞ……?


「もういいもん! シズ! 家で遊ぼ!」


「ウソウソだって。遊んでもいいよ」


「ホント? やった!!」


 パッと顔を明るくさせるアオイ。その様子を見て胸を撫で下ろす部長。なんだこれ? 僕はアオイが普通の幼女の世界線に来てしまったのか……?



「まぁまぁまぁ〜」


 突然、聞き覚えのある声がして振り返る。すると、部室の入り口で女神ディーテが立っていた。


「ディーテさん。どうしたんですか今日は?」


「ディーテ!? この女の人が!?」


 部長がディーテさんの周りをうろちょろし、髪や体を珍しそうに触る。ディーテさんはそれを気にも止めず話しだした。


「多分ねぇ……この子の中にある恋愛感情が一回暴発しちゃったみたいね」


「感情が暴走……?」


「恋愛感情ね。恐らく自分で……いえ、これ以上はやめておくわ」


 ん? 自分で? アオイ何かしたのかな?


「その爆発によって一時的に思考が幼くなってるわね。しばらくすれば戻るわ」


 一時的? 


 その言葉に安心する。このままアオイがいつもと違う感じになってしまったらと思うと……なんだかすごく悲しい気分になった。


「ん〜?」


 急にディーテさんが顔を覗き込んでくる。フワリといい匂いが漂い、思わず顔を背けてしまう。


「なんで君は安心してるの? この子の精神が大人にならないと困ることでもあるの?」


「え、もちろん困りますよ。その。アオイの単位のこととか……」


「君はなぜ幼女ちゃんのことをそんなに気に止めるの? 友達だから? それにしては献身すぎじゃない?」


 その言葉に、なぜかアオイがお見舞いに来てくれた時のことを思い出す。顔が一気に熱くなり、女神から目を逸らした。



「ん〜? 貴方の中にも願いのカケラがあるような気がするわねぇ……無自覚は罪よ♡」



「……ほっといて下さい」


 女神が何を言いたいのか反射的に分かった。でも、僕は……そんなにすぐに突っ走れないよ……。


「ま。いいわ♡ 今日は幼女ちゃんの希望たくさん聞いてあげなさい。満足すればそのうち戻るでしょ」


 それだけ言うと、女神はバンと扉を閉めて去っていってしまう。


「あ〜!? もっと調べたかったのに!」


 悔しそうに部長が机を叩いた。


「シズ? 早く遊ぼ!」


 アオイの無邪気な笑顔が、なぜか胸に沁みた。


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