第2話の4
温泉であった。
「なんでつか! なんでつか、ここ?!」
「はぁい。ここは保養施設として近年開設されたばかり。ここでちょっとお休みいただくのは如何でしょうか?」
ルーズ、得意げにのれんを上げて招く。
君が建てた施設でもないよね?
街を出てすぐ休憩って、どういうこと?
「なんでつか、なんでつか、これは!!」
モニカは目を輝かせて、ミルクのように濃厚な湯気立つ露天大浴場に興味津々。生まれて初めて見る光景に、顔も真っ赤に大興奮。
(こりゃ、あかん。あかんで)
ケルスは
このままでは大事な使者の役目を果たせない。
モニカはきっとはしゃぎまくり、疲れてお休みモードに入ってしまうだろう。
事は急を要する。使者には神速を求められる。そもそもその時点でモニカがその任に当たるのは不向きのはずなのだが。
ケルスとしては、人間が敗北しようが構わない。魔王軍の勝利は自分にとってはかえって好都合かもしれない。
「過重労働反対! やっとれんわ!
百年前、ケルスは見込みのない魔王軍を捨てた。
人間に捕らえられたと見せかけて、かえって絶対安心な(とは、なめられたものだが)人間の城の地下に隠れ住んだ。
その魂胆、すっかりリジェル姫にはお見通し。
モニカにも見付かれば、「おっきなモフモフさんでつ!」と、怖いもの知らずにもみくちゃにされてしまう始末。
地獄の門番と
(神のご加護のあるお姫さんなんて、なんちゅう怖いもんやねん)
モニカの任務失敗は、モニカよりも引率者が責められる。
普段は猫を被っているリジェル姫も、こと兄妹のこととなれば……。
ぶるっと、わんこ姿のケルスは身震い。
ケルスの苦労など何も知らず、モニカは一転、しょんぼり?
くぅ~~~。
「ケルス、おなか空いたでつ」
「そうやな。お昼、食べてへんもんな」
ケルスの気も知らず、モニカは自由気まま、のんきなものである。
「どうか、なさいましたか?」
「おなか空きまちた。お昼の時間でつ」
「では、そこの売店で何か……」
「お弁当があるのでつ! お姉たんも食べまつか?」
さっそく弁当の蓋を開けると、すぐ一口。
もぐもぐしながら、次はルーズにと。
仔犬のように愛くるしく、タンポポのようなお手てで差し出すのである。
「ああ! それはありがとうございます!! 光栄ですぅっ!!!」
「あーん」
「あーん……」
ハートマークの乱舞である。
至福!
至高!
思い残すものなし!!
「なんや?」
「お姉たん、どうしたでつか?」
ルーズ卒倒。
天に昇って、悔いはなし!
モニカの髪を洗ってあげて、体も磨いてあげて。
すっかりきれいになって、一緒に温泉入れば、はあ~、いい気分。
モニカほっこり、任務放棄!
(私の任務は完了!)
と、趣味全開の淡い
「お姉たん、大丈夫でつか?」
「なんや、湯に入らんうちにのぼせてしもたんかいな。けったいな奴やなあ」
モニカ、ルーズをツンツン。
魔族の刺客は緩み切った顔で退場。
お見事モニカ!
刺客を撃退したのである。
刺客の存在など全く知らないうちに!!
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