第2話の1

(フフフ……)


 不気味に闇が笑う。


 コウモリの羽。

 濃紫こむらさきの肌。

 黒い瞳は縦に割れる。

 牙も爪も鋭く、その容貌は悪魔そのもの。


 が、美しい。

 ネコ科のけものを思わせるしなやかなボディ。

 腰まで伸びた闇黒あんこくの髪は月光を受けつややかに、夜風になびく。


 魔王軍第三諜報ちょうほう部隊、特殊別働工作員。


 彼女に与えられた官職である。


 名を、ルーズ。

 二つ名は『堕落を与えるもの』。


(誰が来ようとも、私が誘惑し、伝令の役目など自ら放棄するようにして、ア・ゲ・ル)


 ぺろりと、妖艶に唇をなめた。

 真っ赤な舌はいやらしくも、ぞくぞくと背をはい回るほど蠱惑こわく的である。


(魔法での伝達が無理なら、人づて、伝令が走るのは知れたこと。たとえ情報が洩れようとも、伝令はしょせん人間、潰すことなど造作もない)


 伝令は早さをたっとび少数であるのは兵法の第一。

 それを抹殺、あるいはおとしめれば……。


 我が魔王軍、千年の悲願!

 ついに人間どもに勝利する時!!


 ルーズは自らの美貌びぼうと術に誇りを持っていた。

 課せられた任務達成には、ゆえに絶対の自信を持つ。

 屈強な体と強靭な精神を持つ歴戦の勇者でも堕としてみせる。

 魅了の術を防ぐ魔導師さえ、我が美一つで心を奪ってみせよう。


(どんな人間であろうとも……)


 魔女の艶笑えんしょうは色欲の淵へ導くようにあやしい。

 男でも女でも、彼女の前では理性を保てないだろう。

 美と愛を理解する大人ならば。

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