モニカのはじめてのおつかい、できるかな? ~王国の運命は幼女に託された!~

第1話の1

「なに、それはまことのことか!!!」


「は、はい」


「うぬぅぅ……」


 その報がもたらされた時、王は歯噛みをし、玉座を握りしめた。


「た、確かなのか」


 うめくようにして、王はまた兵に問う。

 嘘などあるはずもない。それは分かっている。

 尋問じんもん官の正式な報告だ。

 それでも聞き返さずにはいられなかったのだ。


「捕虜を拷問にかけ、聞きだしたもの。魔王軍は我が軍の横っ腹を別動隊で衝くべく、すでに少数精鋭部隊が派遣されたとのことです!」


「そ、そんな……」


 王のとなりでその報告を聞いた王妃は卒倒寸前であった。


 無理もない。前線で戦うのは実の息子なのである。

 王国最強の剣の遣い手。ドラゴンライダーとしても名を馳せる、第一王子ヘイエルである。

 息子の危機を嘆かない母がいようか。


 王妃の心中も察するところあろうが、今は魔王軍との長き戦いの真っただ中。ヘイエルは勇敢にもその先槍さきやりとなりて、魔王の陣地、その喉元まで攻め入ろうとしていたのである。


 その矢先に……。


「王様!」


 大臣が詰め寄る。


 さもあらん。


 つい先だってには別な急報、もたらされていたのである。


 通信網が遮断されたと。


 いずれ魔王軍の仕業であろうが、事ここにきてのそれに何の意味があるかと、軍議が行われていたさなかだったのである。


「よもや……」


 王は嘆き、天を仰いだ。

 すべてはつながった!

 魔王軍は前線と後方司令部を遮断することで、この単純にして明快な作戦の成功をはかっていたのである。


 恐るべし、魔王軍……。


「リジェルの神託を仰ぐ!」


 王位継承権第二位。

 ヘイエルの双子の妹、リジェル。

 歴代でも最高の魔力を持つという。

 まだ18歳の乙女でありながら神託を受ける巫女であり、魔導師軍団の顧問を務め、また新たな魔法の開発も得意とする。


 王が真っ先に彼女の名を呼んだのも無理なからぬこと。


「ハッ……」


 こうべを垂れ、一人の兵が走る。


 円卓には苦しみだけが残る。


 千の時が過ぎたかと思える沈黙のあと、もたらされたのは、


「モニカ様を、伝令に出せと」


「なんだと!!」

「ああ……」


 リジェルが受けた神託を伝える兵士が苦くその名を絞り出すと、ついに王妃は神を呪うかのよう天を仰ぎ、失神してしまった。


「ぬぅ……」


 先ほどにもまして、王は玉座を握る手に力をこめ、苦渋の決断を迫られ顔がゆがみ切る。

 大臣たちは王の決断を待つ。

 早く、早く、「モニカに申し伝えよ」といわねばならぬのだが、その口が動かない、言葉を発せられない。


 モニカ。

 第二王女。

 兄たちより13歳も下、よわいわずか五つの女の子である。

 その年齢にそぐわず、奇跡の聖女とあがめられている。

 王城の地下に封じられていた魔獣、地獄の番犬の名を与えられた、白き巨大な獅子ケルベロスをしたがえたがゆえである。


 彼女はきっと、我が国の切り札となる。

 成長すればきっと。


 神託待たずとも、誰もがそれを信じていた。


 しかし、しかし……

 今はまだ年端もいかぬ幼子である。

 いくさのことなど何も知らない。

 無垢むくな少女を過酷な戦場へと送るのか?

 その小さき体で大任を果たせるのか?

 親である前に、国を収める王として疑わずにはいられない。


「ぐぅ……」


 王はいまだ、決断出来ずにいた。


 王の言葉をもて、反撃のスタートは切られるというのに。

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