『竜族ドニーとギルバート家』『雪どけの春、ある晴れの日』1人称

「登場人物紹介」


 エリック 『グラントエリック建国史』の主人公。魔法剣士。前国王。黒のショートカット。黒の瞳。

 グラント エリックの父親。魔法剣士。黒のショートカット。黒の瞳。

 ホリー エリックの母親。魔法使い。黒のショートボブ。黒の瞳。

 ナック エリックの祖父。ホリーの父親。

 チャーリー エリックの祖母。ホリーの母親。

 ネヴィル エリックの祖父。グラントの父親。

 ノーヴァ エリックの祖母。グラントの母親。

 フレデリック シュトーリヒの元領主。

 フェスト シュトーリヒの元領主。フレデリックの息子。魔法使い。金のショートカット。金の瞳。

 マーティン シュトーリヒの領主。フェストの息子。フレデリックの孫。エリックの幼馴染。魔法使い。光魔法が得意。金のショートカット。前が長めで、後ろにいくと短くなるシャギー。金の瞳。

 コキーユ エリックの妻。聖獣召喚術師。相棒の白狼・アドルフを連れている。茶色のロングヘア。左にカラーリリィの髪飾り。茶色の瞳。

 アドルフ コキーユの相棒。白狼のオス。大型犬のように小さくなれる。

 ロリオ コキーユの父親。茶色のショートカット。癖毛。茶色の瞳。

 ドニー 主人公。竜族の科学者。白のショートカット。金の瞳。ほぼ無表情だが、穏やかで優しい性格。動物に好かれる。

 アントベル 主人公。エリックとコキーユの次男。第二子。国内で最強の魔法使い。兄弟の中で、気が弱い方。契約聖獣の黒猫・ホットを連れている。茶色のロングヘア。右横を茶色のゴムで結んでいる。茶色の瞳。童顔。

 ホット アントベルの契約聖獣の黒猫。オス。赤いリボンを付けている。

 ケルソー エリックとコキーユの三男。第四子。魔法剣士で、聖獣召喚術師でもある。黒のショートカット。癖毛。黒の瞳。

 スノー エリックとコキーユの次女。第六子。魔法使い。氷魔法が得意。茶色のロングヘア。右に白いリボンの飾り。茶色の瞳。

 ヴァルム マーティンの次男。次期シュトーリヒ領主。スノーの夫。金のショートカット。後ろから見るとダイヤの形。金の瞳。




 水色の空に白い雲が流れていく。

 見渡す限りの森が広がり、木々の隙間から小鳥の鳴く声が聞こえる。


 ──ここまで来る道は、全く舗装されていなかったな。


 木で作られた家の前に立ち、息を吸って……ノックする。

「はーい!」

 母さんの声が聞こえて、パタパタと足音が近づき、ガチャっとドアが開く。

「久しぶり、母さん」

「久しぶり、エリック! 元気にしてた?」

「母さん、手紙に書いたとおり、迎えに来たんだ」

「ありがとう、エリック! ちょっと待ってて、いま呼んでくるから!」

「ありがとう、母さん」

 前のように慌ただしくする母さんを見て、なつかしく感じる。

 中にお邪魔すると、母さんの両親が待っててくれた。

「ナックおじいさん、チャーリーおばあさん、久しぶり。元気だった?」

「ああ、元気だよ! まだまだこれからも生きんとな! 曾孫全員の結婚式を見るまでは、まだ死ねんからな!」

「そうですよ! あんな可愛い曾孫たちなんですから、まだまだ死ねませんよ」

 くすくす笑う2人に、つられて笑う。

 本当に──。

「元気そうでよかった」

「ありがとうなあ!」

「ほんとありがとうねえ、エリック」

「エリック!」

 呼ばれて、母さんの方へ振り向くと、父さんの両親がそこに立っていた。

「エリック」

「ネヴィルおじいさん、ノーヴァおばあさん……」

 話をしたのは、何年ぶりだろうか?



 ◇ ◇ ◇



 俺が5歳の時。

 シュトーリヒ領主の息子だったフェストさんの護衛をしていた父さん。

 フェストさんを何とか護り切った父さんは、シュトーリヒ領主だったフレデリックさんの元に駆け付け、彼の代わりに敵の攻撃を受けた。

 その後、深手を負いつつ立ち上がり、何とか敵を倒すが、敵に刺された傷が深く、27歳の若さで亡くなった。

 父さんの訃報を聞いた俺は、目を見開き、黙って立っていた。

 立っていることしか、できなかった。

 幼馴染みのマーティンが声をかけてくれて、そばにいてくれた。

 後で話を聞いた祖父母は意気消沈し、重いうつ病になり、領主を辞めたフレデリックさん夫婦と共に、レーツェレストで生活していた。

 俺は、その後、祖父母に1度だけ会いに行った。

 2人は俺を見て、静かに泣いて抱きしめるだけで、何も話さなかった。


 ──話せなかった。


 最近では、少しずつ元気を取り戻して、俺と手紙のやり取りを少しだけするようになっていた。

 でも、会うのは久しぶりだった。



 ◇ ◇ ◇



「良かった! 本当に!」

 思わず体が動き、2人を抱きしめる。

 あまりにも強く抱きしめすぎて、2人がよろける。

「こらこら、強すぎだよ、エリック」

「少し痛いから、落ち着きなさい」

「うん、──うん」


 ──涙が出そうになる。


 でも、これだけは伝えないと……。

「2人に、俺の娘。スノーの結婚式の招待状を持ってきたんだ」

 腕をそっと離し、2人にできるだけ優しく話しかける。


「一緒に行こう?」

「ああ」

「ええ」


「ありがとう。みんな待ってるから行こう? ネヴィルおじいさん、ノーヴァおばあさん!」

 2人の返事を聞き、手を握りつつ、ゆっくりと外に案内する。




 ドアを開けて外に出ると、ドニーとアントベルが馬車を用意して待っていた。

「あ! 父さん! おじいさんとおばあさん、元気そう?」

 アントベルが俺の表情を見て、嬉しそうに声をかけてきた。

「ああ、元気そうだよ」

「良かった!」

 その声で俺に気付いたドニーは、馬を撫でていた手を止め、こっちを向く。

「エリック、行けそうか?」

「ああ、結婚式も出席してくれるって」

 2人を見て、手短に話す。

「そうか、良かったな、エリック」

「ありがとう、ドニー」

 外に出たおじいさんとおばあさんは、道がきれいになっていることに気付く。

「いつの間に、道が綺麗になったんだ?」

「あら、ほんとね」

「アントベルが魔法を使って、舗装してくれたんだよ」

「ほお」

「まあ、すごいわ」

「──ありがとうございます」

 照れながらお礼を言うアントベルに、ふっと笑う。

 自分の子どもは、何歳になっても可愛い。

「俺の奥さん──コキーユは、ケルソーと一緒にロリオさんたちを迎えに行ってるから、また後で合流するね? 後で会った時にでも、話してあげて?」

「ああ」

「ええ、いいですよ」

「あと、フレデリックさんたちも一緒に行くことになってるから、ちょっと待っててね?」

「ああ」

 返事を聞いて、振り返る。

 仰ぎ見た空は澄み渡り、すべてを包み込むような温かな風が吹く。

 ピンクの花がふわりと揺れ、まるでスノーの結婚を祝福しているかのようだった。




 みんなが集まり、スノーの結婚式の会場へ着く。

 そこには、ウェディングドレスを着たスノーと、フロックコートを着たヴァルムが、最高の笑顔で迎えてくれた。

「おめでとう! スノー! ヴァルム!」

「「ありがとうございます!」」

 2人は、フワッと幸せそうに笑った。

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