1月1日 10時29分

 玄関の方で物音がした。

 数十分前から、アキちゃんが何かしている。


 自室のモニターに防犯カメラの画面が映っている。

 どこに行こうというのか、何かを沢山入れた大きなトートバッグを持ち、靴を履いていた。

 玄関から出ることなく、トートバッグから神事用の鏡を取り出す。


 鏡に触れると、アキちゃんの姿が消えてしまった。

 

 誰もいない玄関には、時計の鐘が響き渡る。



 見えない振りをしたが、最初から見えていた。

 その狐は、最初はアキちゃんの車に、次はスマホに、挙句の果てにはアキちゃんに巻きついていた。


 車を見ながら様子を伺っていると、姿が消えた。それを確認して、室内に入った。

 だが、次の日には、気がついたらスマホに巻きついていて、アキちゃんと話していた。


 あれは悪霊ではなく、神の類だ。

 だから止められなかった。

 疲れを癒しにきたアキちゃんが更に疲れるのは嫌だが、どうにも出来なかった。


 俺がアキちゃんにできる事を奪うな。


 あの狐が、アキちゃんの推しとかいうアニメキャラを作り出した。

 そのキャラは知っている。

 車の助手席にもぬいぐるみが置いてあったし、アキちゃんが好きだって、以前カフェのブログに書いていた。


 そいつは急に現れて、当然のように、大切なアキちゃんの身体にキスをした。

 だから、当然のように殴った。

 アキちゃんに理由を問われたら、土足で畳を踏んだからと言っておこう。


 あんな奴のために、大切な休みを消化するな。

 俺はここにいるだろ。


 俺の隣にいてくれ。

 俺に好意を向けてくれ。

 ずっと、ずっと。

 愛をくれ。


 俺が振り続けたら、ずっと口説いてくれるだろ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る