始祖ノーランの書を探して

秋犬

第1話 冒険者エレル

 地下迷宮の壁に3体、人の身体ほどあろうかという巨大ムカデが張り付いている。


「やっばいね」


 ムカデはガリガリと壁を削りながら、冒険者エレルの元へ近づいてきた。


「でも、ここまで来て諦めるのは!」


 エレルが飛んだ。ムカデは一斉にエレル目掛けて襲いかかる。ムカデの懐に飛び込んだエレルは一匹目のムカデの顎を長剣で粉砕する。


「絶対にナシ!」


 ムカデの毒を浴びないように降りかかる体液を避け、倒れそうな一匹を盾にエレルは残り2体の討伐法を考える。


(派手な魔法は使えないし、それに1体仕留めたから死体が邪魔で動きが制限される。でもそれは向こうも同じ!)


 エレルはまだ足を動かしているムカデを残りの2体目掛けて蹴飛ばし、牽制する。ムカデは死骸を新たな敵だと思い、ターゲットをエレルから仲間だった死骸に変えた。


「よかった、虫がバカで!」


 ムカデの狙いからはずれたエレルは残りの2体の頭部に次々と長剣を突き立てる。ムカデは傷口から体液を流しながらのたうち、やがて動かなくなった。


「はぁ、はぁ……さすが討伐レベル8のダンジョン。雑魚のレベルも高いわね」


 ムカデを倒したエレルはダンジョンの奥へ進む。


「そろそろ最深部なんだけど……それにしてもモンスター少なくない?」


 冒険者エレルは奥へ進むにつれて、違和感を覚えていた。


 討伐レベルとは、世界中にあるダンジョンを管理しているWDO(世界ダンジョン協会)が定めたダンジョンの攻略難易度である。レベルの低いダンジョンは常時初心者が溢れかえり、最深部には「到達おめでとう」のスタンプが置いてあることも多い。このスタンプを集めることを目的にしているスタンパーという趣向の冒険者もいるが、エレルは高難度のダンジョンに入ることを何よりも楽しみにしていた。


 周囲からは「せっかくかわいい女の子なのに、野蛮な商売なんてするものじゃないよ」と言われたが、エレルはダンジョン攻略のスリルと報酬のレアアイテムを得た達成感が何よりも好きだった。


「まさか、みんなさっきのムカデにやられたわけじゃないよね……?」


 このダンジョンは最近見つかったばかりで、入り口から手強いモンスターがひしめいていたために最高難度の8と認定されていた。最深部の到達者は今のところゼロのはずだが、不思議なことに高難度ダンジョン特有の謎解きの類いは一切見当たらなかった。


「実は討伐レベルが間違いだったんじゃないの……? あ、多分、いやあそこが最奥部! 間違いない!」


 エレルは結界に守られた区域を発見した。大抵のダンジョンの最奥部には結界が張られ、モンスターが侵入できないようになっていた。そこにはダンジョン攻略の褒美とも言えるレアアイテムがごろごろと転がっているのがお決まりである。


「おったっかっら! おったっかっら!」


 エレルはお下げにした金髪を揺らしながら最奥部へ走る。相棒の長剣と短剣。そしてダンジョン攻略のための照魔灯といざというときのための魔法袋。防具も兼ねる冒険者の装束に身を包んだエレルはご機嫌にダンジョンを走り抜ける。


「やったー、一番のり! ……って誰!?」


 最奥部の結界に侵入したエレルは仰天した。


「やぁ……よかった、人だ、助かった……」


 最奥部にはレアアイテムではなく、人間の男がひとりいるだけだった。

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