私のスタート

うり北 うりこ

私のスタート


「せーの!! だからね?」

 

 そう言って、同じことを同時に始めても、ゴールは決して同じにはならない。そのことに気が付いたのは、私が小学二年生の時だった。

 

 レナは、何かと一緒に始めたがった。一緒に始めれば、褒められるのはいつも彼女。みんなから褒められて嬉しそうにする、そんな彼女を眺めているのが好きだった。

 

 一番の親友だと思っていた。人気者のレナには、レナしか友だちがいない私と違って、たくさんの友だちがいた。それでも、私を優先していてくれたし、何かを始める時は私としかやらなかったから。

 

「レナちゃんって、何でいつもミナミちゃんなんかと一緒にいるの? 全然釣り合ってないじゃん」

 

 ある日、教室でレナに話しかけている子がそう言っているのを聞いてしまった。思わずドアの前で足を止める。答えが聞きたかった。

 

「んー。だって、ミナミが一番なんだもん」

 

 嬉しかった。誇らしかった。それなのに──。

 

「あー、引き立て役にはピッタリだよね」

「そんなんじゃないってー」

 

 馬鹿にしたような笑い声。全てが合致した瞬間だった。

 レナにとって、私は引き立て役。のろまでパッとしない私と、要領が良くて可愛いレナ。考えたこともなかったけれど、納得しかできなかった。今までのことを、後悔した。

 それでも聞かなかったふりをして、レナの隣にいた。もしかしたら、友だちに合わせてそう答えただけかもしれないから。

 

「ねぇ、レナ。私たち、親友だよね?」

「当たり前でしょ? ミナミったら、急にどうしたの?」

 

 その笑顔が偽物に見えた。親友だと思っていたのは、私だけ。そう思ったら、笑えてしまった。


 レナと、せーの!! で始めたこと、レナは飽きたと全てやめてしまっていた。

 ううん。私が追い付きそうだと感じるとやめていたのだ。そのことにも納得した。

 せっかく、頑張ったのにな。

 

 あーぁ。友だちだと、親友だと思っていたのは、私だけだったのか。

 せっかく、一番のレナにしてたのに。レナの一番になれないなら、もういいや。

 

 私は、レナの親友をやめた。だから、レナを引き立てるのをやめた。

 できないふりをしないと、レナが不機嫌になるから上手くやっていたつもりだけど、それももう意味はない。だって、親友じゃないんだから。

 

「ねぇ、レナ。例え、『よーい、ドン!!』で始めても、ゴールは一緒にはならないんだよ? 知ってた?」

 

 もう、レナを待つのも、後ろを走ってあげるのも止めよう。ここからが、本当の私のスタートだ。

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