カメラ越しでしか、見ることができない人
曲輪ヨウ
速川とカメラ
昔から何をやっても、ダメな奴だった。
だから、自信なんてつくわけがなかった。
いつもカメラ越しで、あの子を見てるだけ。
小学校のとき、市の陸上大会であの子の写真を撮ったことがある。
それだけの理由で入部した写真部で、陸上部の練習風景や大会の様子を先生から貸してもらった学校のカメラを使って撮る。
あの子...
初原と
話しかけたことはなくて、いつもただ見てるだけ。
それで満足しているし、これ以上になれるだなんて思ってない。
ただのクラスメイトでいい。友達にも親友にもなれない。
恋人なんて、夢でも見ることができない。
ただ憧れてて、勝手に好きになって、遠くから見るだけで満足だ。
「他の奴らも見習ってほしいよ、ホント」
「何がですか?」
顧問の先生がため息をつきながら言う。
「速川みたいに真面目に活動してほしいんだよ」
私は真面目なのかもしれない。いつもがんばっているし。
でもそれだけで、結果は出ない。
所詮は何をやってもダメな奴だから。
写真だって、皆の方が撮るの上手いし。
私はただ初原さんを見ていたい。それだけの理由でここにいる。
運動も勉強も、どれだけがんばっても私は最下位。
初原さんは何をやっても、一番で本当にすごい。
私なんかとは違う。雲の上の人。
でも同じ高校に行きたいな。
私の頭じゃ無理だって分かってるけど、見たいな。
高校生の初原さん。
・
卒業式が終わって、初原さんは皆に囲まれてた。
人気者だから。優しいから。真面目だから。努力家だから。
一度も話したことはないけど、よく知ってる。
だって、見ているだけでも充分にそれが分かったから。
「一緒に写真撮ってよ、初原」
「高校、県外なんでしょ?もう会えないじゃん」
いいな。私も.......
「ねえ、速川さん。写真撮ってよ」
「え?」
「うちらの写真。お願い」
そう言ってクラスの女子から、スマホを渡された。
あ、そっか。そうだよね。
私はただのクラスメイトだもん。
友達でも親友でも、ましてや恋人でもない。
ただ見てるだけ。
「いいよ」
あ、初原さんが見てる。
......私、ちゃんと笑えてるかな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます