短編賞創作フェス第一回

@PrimoFiume

スタート

「和彦、ちゃんとお母さんに説明して。一体何があったの?」私は努めて冷静に息子に問いかけた。

 以前、夫から私は感情的な面があると言われたことがある。感情的な相手とは議論をする価値がないとも言われた。夫曰く、そういうタイプの人は相手の意見ではなく、相手の人格を否定し、攻撃してくるそうだ。その攻撃材料として相手の意見を曲解するため、まともに話し合いができないというのが夫の意見だった。これを藁人形論法、ストローマンと言うらしい。逆に夫は無神経というか、感情が欠落しているのではないかと思うこともある。和彦が私と夫を足して二で割った子であるなら理想的なのだけど、……。

「その問いに答える前に、いくつか説明しないといけないことがあります」和彦は中指でメガネをクイッと上げた。

 まだ、小学三年生だというのに、妙に大人びた言葉づかいをする。それだけでは無い、自分の子供であるという贔屓目ひいきめを差し引いても、和彦はその辺の大人よりも論理的思考に長けている。それは夫の性格そのものだ。

「お母さんは宇宙がどうやって誕生したか知ってますか?」

大爆発ビッグバンかしら?」

「そう、つまり宇宙は破壊から生まれたんです」和彦は生徒に授業する先生のように言った。

「お母さんには話が見えないんだけど」

「切り口を変えましょう、お母さんは金継ぎをご存知ですよね」

「割れた陶器をうるしでくっつけて金をあしらったものよね」

「そうです、もともとは修繕を目的としていたはずなのに、そこに新たな美しさが生まれるんです」

「あなたが何を言いたいのか分かったわ」

「破壊は誕生と、更なる成長へのスタートなのです」和彦はそう言って締めくくった。


「だからと言って、あなたが割った窓をそのままにしたり、金で継ぐわけにはいかないわ。あなたはここからどういったスタートを切るべきかしら?」


「ごめんなさい」

「よろしい」

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