射止めて撃ち抜く家ウサギ
池田春哉
第1話
『二兎を追うものは一兎をも得ず。
だが恋はただ一兎を追えばいい』
そんな文章が画面の中央に表示された。
薄緑色の背景に濃紺の文字のシンプルなレイアウト。アプリのホーム画面だ。
数秒経つと、画面が切り替わった。ずらりとたくさんの写真が規則的に並ぶ。
そのほとんどが顔写真だが、中には料理や動物の写真も混じっていた。写真の下には年齢とニックネーム、居住地が載っている。
ついにインストールしてしまった……!
膨らみそうになる不安や期待を抑えながら私は男性の写真が並ぶ画面を見つめる。
世の中にはこんなにも恋をしたい人がいるんだな、と他人事のように思った。
――マッチングアプリ『
最近話題の恋活アプリだ。
昨今この手のアプリは爆発的に広まり、多種多様なものが生み出されている。
中でもこの『IT』は業界初の革新的なシステムを導入しているらしく、詐欺や勧誘など危険人物はほとんどおらず、先に繋がる本気の出会いが多いと評判だった。
「新しい恋を見つけたいなら、まずは出会いを増やすべきじゃない?」
結婚を意識していた彼氏にフラれ、今後について相談した友人に勧められたのがマッチングアプリだった。
「
彼女の言葉に背中を押され、私はケージから飛び出した。
絶対幸せな出会いを見つけてやるんだから。
画面に指を滑らせる。見知らぬ男性の顔写真が現れては消えていく。
人を見た目で判断するなとは言うけど、第一印象はやっぱり見た目だ。
そして第一印象が良くなければプロフィールに辿り着いてすらもらえない。これが現代の弱肉強食か。
「――あ」
ふと、指が止まる。一枚の写真に目が留まった。
青色のシャツを着た男性が映っている。
歯並びのいい口元を惜しみなく見せつける屈託ない笑顔だ。くしゃりと目尻には笑い皺が寄っていて、かわいいなと思った。
タップしてプロフィールを開く。
数枚の写真と紹介文が載っていた。会社員をしているらしい。趣味は旅行。私と一緒だ。真剣な出会いを探しているという旨の文言に惹かれる。
他の写真を見る。
友達と遊んでいる写真。ケーキを前にした写真。海外の街を歩く写真。そのどれもが笑顔だった。よく笑う人のようだ。
一瞬、迷う。
けれど私は自分の直感を信じた。
「……ええい!」
勢いをつけて画面右下のハートマークをタップする。
灰色だったハートが赤く染まると同時に、彼の顔写真が一羽のウサギに変身した。
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