夢のスタート地点

空き缶文学

スタート地点

 蒼いセーラー服を着た10代後半の少女が3人。

 他に共通している特徴は、黒髪であり、左右どちらかの瞳が赤いこと。

 そして、オートパトロールロボット(以下APR)が標的であること。

 校内の崩れた壁を遮蔽物に見立て、右側、中央、左側と配置につく。


 右側の少女は、サイドを結んだ髪型、華奢、細い手には軽量タイプのSMGサブマシンガン。右目が赤い。


 中央の少女は、耳掛けショートで痩せ型、手には5.7㎜弾のハンドガン。右目が赤い。


 左型の少女、真っ直ぐに伸びたロングヘア、美形かつ強気な目つきが特徴で、ボルトアクションライフルと、ハンドガンを携帯している。左目が赤い。


『gigigigigigiggiig』


 遮蔽の向こう側から聞こえてくる不快な機械音声。

 

『こちらシャッテン。ナハト、敵が前方にいます、射程圏内、行けますね?』


 マイクから聞こえてきた仲間の艶やかな声に、ナハトと呼ばれたサイドテールの少女は短く返事をして頷いた。


わたくしがサポートします』

『あの……こちらブリッツ、どっちも同じ距離だから……一斉に射撃した方がいいんじゃないかな、相手は装甲の厚いロボットだし』


 ブリッツと名乗った耳掛けショートの少女は無線に乗せて呟いた。


『こちらナハト、無線使い過ぎ、敵のプログラム次第だと位置がばれる可能性あり』


 細く冷静な声でナハトは2人に注意する。


『……貴女ナハトです?』


 シャッテンの疑問は床が揺れる振動に遮られた。

 天井にヒビが入る程の足音、校舎の廊下を抉る四足で移動し、単眼が360度動き回る。


『ggigigigigigiggigi-giri-ppppp』


 危険を察知する警報音に変わっていく。


「発見、までは行かない。ただ、警戒モード」


 ナハトの赤い目には仲間や敵のステータスを数値化したものが表示されている。


「破壊する」


 単眼が反対側を向いた瞬間を狙い、遮蔽物から飛び出した。

 構えたSMGに装填した徹甲弾が容赦なく装甲に穴を開ける。


『pipipiiiiii』


 警告する機械音声。

 APRは反撃のテーザーを左右のノズルから放つ。

 棘のついた弾丸はナハトの頬を掠める。

 50万ボルトの衝撃に跪き、筋肉の制御を一時的に失う。


「今援護します!」


 シャッテンは装填していたボルトアクションライフルを構え、照準器越しに敵を捉えたあと、爆裂音を響かせた。

 APRの単眼に直撃。

 単眼は吹っ飛び、校内の壁にぶつかったあと粉々に落ちていく。

 ハンドルを引いて、また押し倒す。排莢、装填したあと、次にノズルへ発砲。

 火花を散らして粉砕する。


「さすが、命中率の優等生」


 ナハトはゆらり、と立ち上がる。


「お世辞は不要です」

「APRの視界アウトだよ……トドメにコアを、抜かなきゃ」


 ブリッツはハンドガンを構え、赤い目に表示された分析通り、APRのコアとなる球体を発見。

 四本の足部分をリズムよく、単発で撃ち抜いた。

 飛び散る中の配線と琥珀の液体、関節部位が砕けて、視力と脚を奪う。


『こちら司令部、APRのコアを回収せよ。ただし回収には細心の注意をはらえ、誤りなど許されん。コアを破壊してしまえば、校舎全てが吹き飛ぶぞ』


 3人の耳に届いた渋く低い声。


『こちらブリッツ、司令あの、APRのコアを発見しました。これから抜きます』

『よし……訓練を思い出せ、慎重かつ迅速にだ。ナハト、シャッテンは警戒を続けろ。コアを回収したらすぐに撤退だ』

『こちらナハト、了解』

『こちらシャッテン、了解しました』


 ブリッツは、呼吸を整えAPRの胴体開口部に手を伸ばした。

 右目はアラートの数値が波として打つように、右から左へと流れていく。

 赤い線を超えないよう、丁寧に触れていく。

 開口部のキーに番号を入力。

 赤い線をギリギリ、高波のごとく揺れる数値に、汗を垂らす。

 最後の番号を入力すると、開口部は高い音と共に開いた。

 ほんのり赤く蠢く明かりが漏れ、右目が反応。

 ふぅ、と息を再び整え、コアに付属した取っ手を掴んだ。

 そっと捻らせて、呼吸を乱さないように抜き取る。

 真っ赤なコアは5秒後、黒く淀んで明かりを失った。

 ブリッツは、大きく息を吐き出す。


『こちらブリッツ、コア回収、できました』――――。





 ――――半壊した校舎を歩く3人の少女。

 共通する蒼いセーラー服、黒髪、どちらかの瞳が赤い。

 サイドテールのナハトは、


「これはいわば夢を叶える為のスタート、第一歩ってやつだ」


 口調を明るめにした。

 驚くシャッテンは、


「この突拍子のなさは、いつものナハトですね……もしかして任務中はああなるんですか?」


 訝しんで睨んだ。

 コアを抱えるブリッツは、


「夢の第一歩……」


 弱く細い声で呟いた。


「シャッテンはいつも通り過ぎ、ブリッツはなんか真面目過ぎ、はいじゃあ、ここがラインね」


 正門の役割を果たしていない崩れた、校舎の出入り口。

 車輪が通るはずだった溝の手前に立ち止まる。


「な、何するの?」

「ほら、ふたりとも並ぶ並ぶ」


 溝の手前に、横一列に並ぶ。


「いい? 私達はお互い素性を知らないチームだ。この戦いに志願した兵士ってだけで、理由すら知らない。でも私は今回の初任務を再出発と踏んだ、チームとしてここから始まるわけ」

「はぁ、ブリッツも付き合ってあげてください」

「……うん」


 揃って片足を上げ、


「せーのっ」


 溝を越える、


「貴様らぁあああ!!」


 寸前で止まってしまう。

 軍服にマントを羽織る厳つい男が怒声をまき散らしてやってきた。

 驚いた拍子にブリッツの手からコアが飛び跳ねた。


「馬鹿者!!」


 男は慌ててコアをキャッチ、冷や汗をかいて息を吐く。


「司令官!」


 並んで敬礼。


「コアを回収したらすぐに撤退しろと命令したはずだ!」

「す、すみませんでした!」

「会話ログを見るに、撤退が遅れたのはナハトが原因だ。罰として訓練追加ぁ!!」


 ナハトは背筋を伸ばした。


「りょ、了解ですっ」

「よし、すぐに乗れ!」


 迎えの軍用車両に乗り込んだナハト、追いかけるシャッテン。

 後に続くブリッツに、


「ブリッツ」


 司令官は声をかけた。


「は、はい」

「……初任務でコア回収とは、重圧の中よく頑張った。戦いの中でお前の探しているものが見つかるといいな」

「はい……ありがとうございます」


 ブリッツは溝のラインを飛び越え、今、スタートを駆け出していく――。


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