ずぶしろくんの泡踊り
小深純平
第1話
午前11時30分、お店のオープンである。友人の本宮君が決まって現れる時間でもある。彼は早い昼食を済ませると毎日のように僕のコーヒー店に寄る。今日は業界新聞を握りしめカウンター席にすわると荒々しく新聞を広げ「やっぱり油だよ」と彼は僕に向かって意味不明な言葉を発した。彼は縫製工場経営者の2代目であり、あまりお金には頓着していなかったが急に熱病にかかったように株だの経済だのと言うようになった。高校生の頃はどもりで無口な学生であったので、就職はせず家業を継いでいた。僕は東京の大学を卒業して、北関東のS市に帰り公務員になった。しかし毎日が退屈で3年でやめてしまった。隣に立っているのは職場結婚をした妻の恵子である。妻も僕と同時にやめてしまったので店は2人で切り盛りをしてきた。細身で小柄な恵子は店内をひらひらと枯葉のように歩き回りすこぶる評判の良い接客をしていた。僕も細身で長身だったが彼女のような動きはできないので1日中カウンターの中にいた。
本宮君は勝ち誇ったように「やっぱり上がったよ、とうとう火が付いたな、」僕は何を言っているかさっぱり理解できなかったが、とにかくか勝ち誇ったように得意満面であった。僕はきょとんとしていて彼の言葉に全く無反応であった。彼はつまらなそうに「帰る」といい店を出て行った。
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