第四章:そして

第二十三話:歩


「どうなっているのベータ!?」


「分かりません、しかし磁場波形が零点に集約されていきます、オレンジ波形もです!!」


「そんな、まさか同調してあゆみさんが異界の門に!?」




 まばゆいばかりの光に包まれながらベータとアルファはその磁場波形の見る。

 が、その光は全てを飲み込んで行くのだった。




 * * * * *



「これは一体どう言う事じゃ!?」


「お兄ちゃん、まさか磁場波形がこの女と同調しちゃったの!?」




 真っ白な世界でザナとアイナは裸のまま揺らいでいた。

 本来ザナはアイナの身体に憑依をしているはずだが。

 しかし今は別々の身体でこの空間に漂っている。



 ―― ザナ、アイナ、ここは精神世界だよ ――


 聞こえてきたのはあゆむとあゆみの声が混ざった物だった。

 驚きザナもアイナも声のぬしの姿を探す。



「何処じゃ、ナギ様っ!」


「お兄ちゃん!!」



 しかし周りをきょろきょろと探しても見つけられない。

 だが歩とあゆみの声は聞こえて来る。


 ―― 俺は身体が女でありながら心は男という不安定な存在になった。でもその双方を同時に受け入れることで磁場波形の男性磁場波形、女性磁場波形ともに振れる事無く中央値であるゼロにしている。つまり、俺にはもうあちらの世界とこちらの世界を繋げるための磁場は発生できないんだ。そしてザナ、お前も俺の波形に引き寄せられこの場で同じ波形へと収束していくんだ ――



「なっ!? それでは我らが世界はどうなる!? 我らは王としての役目はっ!?」



 ―― もう俺らはあの世界に帰れない。異界へとつながる道を作るだけの力はないんだよ。そして、王としての役目も終りだ。俺らはそれらのしがらみから完全に切り離されてしまったんだよ…… ――


 歩とあゆみのその声にザナは驚愕する。

 自分が王でなくなる?

 あちらの世界にもう戻れない?


「お兄ちゃん、そ、それじゃぁお兄ちゃんはもう異界へつながる門にはならないってこと?」


 ―― ああそうだよアイナ。未来は変わった。アイナたちのいた世界は救えなかったけど、この時代から先にもうあの異世界と繋がる事は無い。未来は変わったんだ ――


 歩とあゆみの声がそう告げると、アイナはぼろぼろと涙を流し始めた。


「良かった、お兄ちゃんがあの門にならずに済んだ…… みんなが死なずに済んだ……」


 が、わなわなと震えるザナは叫び出す。



「主様よ! それでは我らはどうなる!? あの世界で我らは我らが家臣の為、我らが国の者の為にして来た事は無意味になってしまうではないか!!」



 ―― ザナ…… 実はそれは違うんだ。あの世界は強きモノが魔力を吸い取ってしまう世界だったんだ。あの世界は各々がその力を発揮して強きモノが弱き者を支配する世界。俺たち王が結局あの世界の者たちから魔力を吸い上げ、そして浪費する事によってあの世界の魔力が枯渇して行ったんだ。だから俺たちがいなくなればその浪費は無くなり、循環を始める。つまり、あの世界も滅ぶ事が無くなったんだ ―― 


 ザナはそれを聞きふるえた。


「そんな……あの世界を、我が家臣たちを苦しめていたのは我らだったと言うのかえ?」


 ―― ああ、そうだ。あの世界で俺たちは「神」とされていた。強靭な龍族や巨人族、魔族の王たちですら俺たちにかなわなかった。それが俺たちだった。しかし、代価として俺たちは知らず知らずにあの世界の魔力を吸っていたんだ、奇跡の力を行使すると同時にね ――


 歩とあゆみのその声にザナは膝から崩れ落ちた。

 そして手をつき下を向いて言う。


「くっくっくっ、何と滑稽な…… 王として、その責務に我は何と長き間無駄な事をしておったのじゃろう…… ナギ様よ、主様よ、我はどうしたらええのじゃろうなぁ……」


 ―― ザナ、お前はもう帰ることはできない。そしてアイナに憑依してその精神と交わりアイナの身体を乗っ取ろうとした。しかしアイナの意思はそれを拒絶する。今、お前のいられる場所は無くなった…… ――


 歩とあゆみの声はそう告げる。

 するとザナは自嘲気味に再び笑って言う。


「はははははっ、ならば我は消えるとしよう…… ナギ様と交わることかなわず肉の身体も手に入れられなければ消えるしかあるまいて……」



 ―― ザナ、俺と一つになりたいか? ――


 しかし歩とあゆみはの声はそう語りかける。

 その声を聴いてザナはハッとなり、顔をあげる。


「ナギ様よ、主様よ、我を受け入れてくれるのかえ?」


 ―― お前の磁場波形と今の俺のゼロ磁場波形は限りなく近づいている。俺と一つに成れば俺の中でお前は生きて行けるだろう、一つになって ――


 歩とあゆみの声がそう言うと目の前に裸の歩とあゆみの姿が現れる。

 そして二人同時に手をザナに差し伸べる。



 ―― 俺(私)と一つに…… ――



 ザナはそれを見て立ち上がり、二人の手を取る。

 そして涙を流しながら言う。


「やっと、やっと主様に、ナギ様に触れられた! 愛しておりますぞナギ様っ!!」


 ザナはそのまま二人に抱き着く。



「ちょ、ちょっとお兄ちゃん!!」


 

 ―― 大丈夫だよアイナ。俺とザナが一つになっても、もう異界の門になる事は無い。完全にあちらの世界との繋がりは絶たれた。そしてザナの魂は俺の中で永遠に眠る。もう、この世界に影響することなくね。さあ、これで終わりだよ ――



 そう言って歩とあゆみ、ザナは三人で手をつなぐ。

 その途端三人が光って一つになって行く。



「ちょ、そう言う事じゃなくて!! もう、お兄ちゃんっ!! このぉ浮気者ぉーっ!!」



 最後にアイナはそんな事を叫ぶも、そのまばゆい光は更に膨れ上がって全てを飲み込んで行くのだった。



 * * * * *



「う、う~ん……」



 歩みは気がついた。

 そこには職員室の天井が見えた。


 だるい体を引き起こし、周りを見るとすぐ近くに全裸のアイナがいた。



「ううぅぅぅ…… お、お兄ちゃんのばかぁっ!!」


「うおっ!?」



 アイナはいきなりそんな寝言を言う。

 歩は更に周りを見ると、向こうにアルファやベータ、更にその向こうには教員の人たちが倒れていた。


 歩は立ち上がって初めて気づく。



「きゃっ!」



 思わずそんな女の子らしい声を上げ、慌てて自分の胸と股間を手で隠す。

 それもそのはず、歩も美少女だと言うのに真っ裸だったからだ。



「ううぅ、体は女の子のままっての忘れてた///////」


 そう言いつつ、歩は寝ているアイナを揺さぶる。


「おい、アイナ起きろ。おい、アイナってば!」


「ううぅ~ん……んぁ? あ、あれ? あゆみちゃん??」


 アイナは歩に揺らされて目を開く。

 その表情はまだ少しぼうっとしている。

 だが歩はそんなアイナを注意深く観察して言う。


「ふう、どうやら憑依は完全に抜けたようだな。大丈夫かアイナ?」


「ううぅぅ……なんか嫌な夢見てたような…… あ、あれ?」


 ちょこんと胸を腕で隠したままアイナの横に座っている歩を見て、アイナは自分の姿も見る。

 そしてにまぁ~ッとしてから歩に抱き着く。



 ばっ!

 抱きっ!!



「そうなの!? やっと一線を越える気になったの!! もうあゆみちゃん放さないんだから! お姉ちゃんとめくるめくる快楽の世界に行きましょう♡!!」


「のわっっ! ちょ、ちょっとアイナぁっ!!」



「はいはい、そこまでです。アイナさんまずは確認ですが、あなたは間違いなくアイナさんですね?」


「はえっ? あ、アルファ??」


「どうやら磁場波形は完全に消滅したみたいです。全てゼロ点で波形揺らぎはほとんどありません」


 歩を襲おうとするアイナの肩に手を載せられ、引っぺがされたアイナは後ろを見るとアルファがいた。

 そしてその横にベータもいる。


 どうやらアルファもベータも気がついたようだ。

 そしてアイナの欲望が爆発する前に現状確認をしていたようだ。


「どうやら異界の親玉であるあの女はいなくなったようですね……」


 アルファは周りも見ながらそう確認をしていると……



 どがぁんっ!



「あゆみさんは無事ですか!?」



 と、職員室の扉が蹴飛ばされ、ガンマがデルタをかついでやって来た。

 ガンマは歩たちを確認するとホッとしてこちらまでやって来る。


「反対派の刺客の人たちと学園内にいた化け物たちは排除が終わりました。こちらでもの凄い光が観測されたのでデルタを回収して来てみたのですが……」



「取りあえず、服着るアルよ、恥ずかしいアル///////」


 ガンマの後ろからお団子頭のマオもやって来た。

 そして更にその後ろからメサーナもやって来て、あゆみたちに布を投げかけてくる。


「異界の者や憑依された者はすべて排除した。磁場波形は全てゼロ点に収束しているが、何があった?」


 そう言いながら同じくストップウォッチのような物を取り出しその表示が全て波形がゼロ点になっているのを見せる。

 歩はそれを見て苦笑をして言う。


「終わったんだよ、全てね。そして未来は変わったんだよ……」


「やつを、あの異界の親玉を倒したのか?」


 メサーナは目をすっと細めてそう聞く。

 すると歩はニカっと笑って言う。



「和解した」



「和解? どう言う事だ??」


「それは……」


 歩がそこまで言うといきなりアイナが叫び出す。



「あ”ーっ! 思い出した!! お兄ちゃんが浮気した!! あの女と一つになったんだ!!」



「お、おいアイナ、なんだよそれ?」


「浮気者ぉっ! 私と言う女がありながらっ!!」


「ちょアイナやめろって、アイナっ!!」


 メサーナに投げつけられた布を胸元で巻き付けながらアイナは歩の首を絞めて揺さぶっている。


 が、そんな事をやっていると他の職員たちがうめき声を上げ始めた。



「いけない、ベータはあゆみさんとアイナさんを回収後撤退! 私とガンマは早急に記憶操作、デルタは……ダメージはあるけど死んではいないわね? 保健室に運んで。急いで、他の職員たちが目を覚ますわ!!」


 アルファのその指示でエージェントたちはすぐに行動を開始する。

 それを見ていたマオとメサーナは苦笑を浮かべて言う。



「後で話は聞かせてもらおう。我々も手を貸そう。マオ!」


「仕方ないアルね、とりあえず火災後にガス爆発でもした事にするアルよ」


 

 そう言ってすぐに行動に出る。





 歩とアイナはベータに連れられて空間を渡り、移動をするのだった。 

 

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