第44話 ひょっとして結人は私の水着を触って興奮しちゃう変態さんなのかな?

 ひとまず三人に夏乃さんが一緒に行きたがっている事をメッセージで伝える。すると一瞬で三人から返事が返ってきた。


「三人とも大丈夫ですって」


「これで堂々とついて行けるね」


「どうせ誰かが反対しても来る気だったくせに何言ってるんですか」


「あっ、やっぱり気付いてたんだ」


「幼馴染なんだからそのくらい分かります」


 何年も付き合いがあるおかげで夏乃さんの考えそうな事など容易に想像できる。多分家族を除けば夏乃さんについて一番詳しいのは俺に違いない。

 そこに関しては兄貴よりも詳しい自信がある。兄貴は夏乃さんの事を特別視し過ぎているため色眼鏡で見てしまっているのだ。

 だから兄貴の理想の中と現実の夏乃さんの間には凄まじいギャップが存在しているに違いない。それに対してありのままを見ている俺の方が夏乃さんについて詳しいのは当然だろう。


「とりあえず私の家に水着を取りに帰るから後ろに乗って」


「分かりました」


 夏乃さんから手渡されたヘルメットを被った俺はタンデムシートにゆっくりと跨った。それを確認した夏乃さんはバイクで走り始める。

 それから数分走り続けて夏乃さんの家の前に到着した。俺と夏乃さんはバイクから降りるとひとまず家の中へと入る。


「俺はここで座って待ってるので準備してきてください」


「えー、結人にも手伝って欲しいんだけど」


 俺が玄関に座ろうとしていると夏乃さんはそんな事を言い始めた。


「その辺は自分でやった方が良いんじゃないですか? ほら、俺が水着とかを触るのはまずいとますし」


「別に結人になら何を触られても私は良いけど」


「でも流石にそれは……」


「私が良いって言ってるんだからつべこべ言わないの」


 夏乃さんは何が何でも俺を手伝わせたいようだ。これ以上拒否しても無駄な事を悟った俺は諦めて夏乃さんと一緒に部屋へと向かう。


「夏乃さんの部屋は結構久々な気がしますね」


「あれっ、そうだっけ?」


「そもそも最近家にすら来てなかったですよ」


 気軽に遊びに行っていた小学生の頃とは違い中学生以降は部活が忙しく、その上思春期な事もあってほとんど訪れてなかった。

 アニメや漫画に登場する幼馴染のように家が隣同士という事もないため何か用事でもない限りは行かなかったのだ。

 そんな事を考えながら歩いているうちに夏乃さんの部屋に到着した。中は俺の記憶にあった部屋とそんなに変わっていない。シンプルでありながら女の子らしさもある綺麗な部屋だった。


「とりあえずそこの収納ボックスの一番上を開けてもらってもいい? その中にサンダルが入ってるはずだから」


「これですか?」


「そうそう」


 俺は言われた通り特に何も考えず夏乃さんの指定した収納ボックスの引き出しを開ける。するとなんとそこにはサンダルではなく女性用の下着が入っていたのだ。慌てて引き出しを閉めた俺は声を上げる。


「いやいや、中に入ってるのってサンダルじゃなかったんですか!?」


「あっ、ごめん間違えた。一番上じゃなくて下だったよ」


「……俺の反応を見て楽しむためにわざとやったでしょ」


 夏乃さんがニヤニヤしている事を考えると多分そうに違いない。色とりどりのパンティやブラジャーは俺のような童貞にとっては目の毒だ。


「私の下着なんて普段は中々見れないんだから良かったじゃん」


「そういう問題じゃないと思うんですけど」


 いくら俺の事が好きとはいえ色々と曝け出し過ぎではないだろうか。そんな事を思いつつ俺は収納ボックスの一番下を開ける。

 さっきの事があったため警戒していたが今度はちゃんとサンダルが入っていた。俺は中からそれを取り出して夏乃さんに手渡す。


「ありがとう、ついでにクローゼットの奥の方に入ってる水着も取ってもらおうか」


「自分で取るって選択肢はないんですか?」


「うん、ないかな」


 夏乃さんはとびきりの笑顔でそう答えた。どうやら下着を俺に見せつけただけでは飽き足りないようだ。


「ひょっとして結人は私の水着を触って興奮しちゃう変態さんなのかな?」


「そ、そんな事ないですよ」


「じゃあ取れるよね?」


 抵抗はあったが取らなければ変態を認めてしまう事になるため仕方がない。俺はクローゼットを開けて中から黒いリボンビキニを取り出す。

 それは以前夏服を買いに行くという言葉にまんまと騙されて女性用の水着売り場に連れて行かれた時に夏乃さんと一緒に選んだ物だ。


「せっかく結人に選んでもらったんだから一緒にプールか海へ行く時に着たかったんだよね」


「まさか今日一緒に行く事になるとは思ってませんでしたけどね」


「へー、って事は今日じゃなかったら一緒に行く可能性あると思ってたんだ」


「い、今のは言葉の綾って奴なので気にしないでください」


 そう誤魔化す俺だったが本当はちょっと期待していたりもした。わざわざ俺に選ばせたくらいだから絶対にどこかで着るつもりだと思っていたのだ。

 それに俺自身も夏乃さんの水着姿を見たいと思っていた。似合うと思って選んだのだから実際に着ている姿を見たかったのだ。まあ、本人にはこんな事恥ずかし過ぎて言えないが。


「ふーん、とりあえずそういう事にしておいてあげる」


 多分勘の良い夏乃さんには全部見透かされていると思うが気付かないふりをする事にしよう。

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