第3章

第43話 まさか私というものがありながら他の女とイチャイチャする気じゃないよね?

 合コンに参加したあの日からあっという間に数週間が経過した。その間に期末テストや三者面談などのイベントも終わり遂に今日は夏休み前の最後の登校日だ。

 放課後になった現在はもう夏休みに突入したと言っても過言ではないためクラスメイト達のテンションは高めだった。

 今日は午前中の終業式と大掃除、ロングホームルームだけで終わりな上に全ての部活が休みとなっているため午後からは全校生徒が自由の身だ。


「なあ、結人。今回の期末テストの結果はどうだったんだ?」


 ロングホームルームで渡された期末テストの成績表を眺めていると海斗から話しかけられた。海斗は上機嫌な様子に見えるため恐らく良い結果だったのだろう。


「今回は五位だった」


「マジかよ」


「俺の成績表と交換してくれ」


 俺の発言を聞いた健二と翔はそう声をあげた。多分二人とも五月にあった中間テストの時と同様ボロボロだったに違いない。何とか赤点だけは回避したらしいが親に見せたら怒られるような成績なのだろう。

 俺はというと過去最高順位を更新したためかなり満足していた。どうせ兄貴は今回もまた一位だと思うが前ほどの悔しさはない。

 今までは兄貴へのコンプレックスが凄まじかったため惨めな気持ちになっていたが、俺の方が優れているところもあると気付けた。

 そのおかげで前よりもかなり楽になったように感じている。だからクラスメイト達は俺が最近明るくなったように感じているとか。


「あっ、そうだ。せっかくだし午後から皆んなでプール行かね?」


「賛成、今日みたいな暑い日にはピッタリだわ」


「勿論俺も行く、やっぱり夏はプールだよな」


「俺も大丈夫」


 健二の提案を聞いて翔と海斗、俺ははすぐさま賛成の声をあげた。プールなんてかなり久々だから本当に楽しみだ。


「それでどこのプールに行く?」


「この辺なら東京サマーヒルズが近いし、そことかどう?」


 海斗の言葉を聞いた俺は東京サマーヒルズを提案した。東京サマーヒルズは数年前に出来たガラス張りのドーム型温水プールだ。

 ウォータースライダーはもちろん、ジャグジーやリラクゼーションプール、サウナ、レストラン等があるため、一日中楽しめる場所となっている。


「確かにあそこはかなり広いし一日遊べると思う」


「あんま遠くに行くと帰るのがだるいからそこにしようぜ」


「だな、明日から普通に部活あるし」


「じゃあ決定で」


 三人からは特に異論もあがらなかったため行き先は東京サマーヒルズとなった。それから俺達はしばらく雑談した後一旦別れて帰り始める。

 水着を準備してから現地集合する予定だ。家に到着した俺はクローゼットの奥にしまってあった水着を引っ張り出す。去年着た時と体格はほとんど変わっていないためサイズ的には全く問題ないだろう。

 水着入れにプールセット一式を詰め込んだ俺が家を出ようとしていると外からバイクのエンジン音が聞こえてくる。


「やあ、結人」


「あっ、やっぱり夏乃さんだったんですね」


 玄関の扉を開けるとそこにはライムグリーンのバイクに跨った夏乃さんがいた。何となくそんな気はしていたがやはり夏乃さんだったようだ。


「あれっ、今の時間って大学のテストじゃないんですか?」


「ああ、それならもう終わったよ。高校までとは違って大学のテストって途中退室できるようになってるから」


「なるほど、別にサボったわけじゃないんですね」


「当たり前じゃん、普段の授業ならともかくテストなんかをサボったりしたらそれだけで落単確定だから」


 俺の冗談を聞いた夏乃さんは呆れたような顔をしていた。夏乃さんは明るい金髪でピアス姿という完全に今どきギャルの見た目をしているが中身は超が付くほど真面目だ。


「それで今日は何をしに来たんですか?」


「どうせ暇な結人と遊んであげるためにわざわざ来てあげただけだよ」


「いやいや、一体俺の事を何だと思ってるんですか」


「うーん、暇人とか?」


 どうやら夏乃さんは俺に対して凄まじい偏見を持っているらしい。


「残念ながら今日はもう既に予定が入っているので」


「えー、それって結人にとってお姉ちゃんの相手をするよりも重要な用事なの?」


「夏乃さんと一緒に遊びたいのも山々なんですがそっちが先約なので我慢してください」


 少し不満そうな表情を浮かべていた夏乃さんに対して俺はそう説明した。


「……ちなみにこれからある予定って何なの?」


「実は東京サマーヒルズに行く予定なんですよね」


 俺がそう口にした瞬間夏乃さんはバイクを降りて俺に詰め寄ってくる。


「メンバーはどこの誰? ひょっとして女の子もいるの? まさか私というものがありながら他の女とイチャイチャする気じゃないよね?」


「こ、この前の球技大会の時に夏乃さんも会ったあいつらと行く予定なので男しかいませんよ」


 凄まじい剣幕に圧倒された俺は少しだけ後退りながらそう答えた。俺に対する好意を一切隠さなくなった夏乃さんは時々こうなる事があるため本当に注意が必要だ。

 もし今後夏乃さんと付き合う事になった場合、うっかり魔が差して浮気なんてしてしまった日には冗談抜きで血の雨が降りかねない。


「ふーん、じゃあ私も行って良いよね?」


「えっ、それは……」


「もしかして私がいたら何かまずい事でもあるのかな?」


「……分かりましたよ、一緒に行きましょう」


 夏乃さんからの圧力に耐えられなくなった俺は折れるしかなかった。今日は久しぶりに男だけで騒ぐつもりだったがそうはいかないようだ。

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