24話 雪原竜の見せた絶景
世界最強の勇者と謳われているアリーゼの勇者パーティに入った私は、アリーゼ達共にベルセルク王国に来ています。
驚いたこんなにも人が居て、文明もにぎやかに栄えているなんて……前の世界じゃありえない事だ……。
周りの人や建物に魅了されながらも、私はアリーゼに問いかけた。
「ねぇアリーゼ、ここで何すんの?」
「挨拶をするんだよ」
「誰に?」
「この国の王様にさ」
なるほどこの国の王様に……——ッ!?
「——ハァ!? え?! ちょっと! 私こんな身なりだけど大丈夫なん!?」
「うーん、別に良いんじゃない? 挨拶だけだしムートもそう思うよね?」
「俺はちゃんと正装で行った方がいいと思うぞ」
「そう言うムートだって正装じゃないじゃん。ま、無礼とかで懲罰とか受けるかもしれないけど、それはそれで私は結構アリだね! 気持ち良かったし!」
アリーゼは親指を立て、ニコッと笑い言った。アンタのドM経験とかどうでもいいんだが……。そんなことを思いながら私は、服にゴミが付いてないか念入りに確認する。
「ミズシマちゃん、そんなに気にする必要は無いよ。だってこの国の王様結構優しいんだよ」
アリーゼがそう言って立ち止まったのは、一つだけ一際目立っている建物、王宮だった。
それを見た私は思わず固唾を呑む。しかし、そんな私を置いてアリーゼとムートは先へ進む。
※
中に入ると私達は支配人に王室まで案内された。そして、
「おい、アリーゼ勇者一行ら、なんだその格好は?」
王室に居たベルセルク王は、膝まづいている私達にそう問いかけた。それを聞いたアリーゼは、
「はい、ベルセルク王、これは私達の私服でございます」
この女堂々と言いやがった! 私服、て堂々と言いやがった!
アリーゼの言葉を聞いたベルセルク王は、目を瞑り、頭を抱え言った。
「そんなのは分かっておる。普通考えぬか? 王の前に来る時は正装で来るということを……」
「すみませんベルセルク王、私達にそのような考えはございませんでした」
「そうか500年以上生きておるエルフにそういう考えはなかったのだな……そんなバカな言い訳がこのベルセルクに通用すると思うかァァ!」
ベルセルク王は怒髪天にも及ぶほどに、怒りを見せた様子で私達を怒鳴った。
「ベルセルク王」
「なんだ!」
「もう一度、さっきの怒鳴り声を私だけに言ってください」
は? コイツやっぱ”ドM”だ……。
その後、私達勇者パーティは1時間にも及ぶベルセルク王の説教を聞かされた。ベルセルク王の説教中、ムートは何故か半分寝ていて、アリーゼに至っては興奮していた。
「もうよい貴様らに説教を続けていると俺の喉が潰れる。それで2人だけだった勇者パーティになぜ俺の知らん女が混ざっておる?」
「はい、この者は私達のパーティに新たに入るミズシマサキという者でございます」
「ミズシマ……? 聞かない名だなぁ。どういう役職に就いていた?」
あ、ヤバい、役職なんて就いてなかったんだけど、どうしよう。私が心の中で戸惑っていると、アリーゼは口を開いた。
「ある里の戦士でございます」
——ッ!
「ほう、戦士か……どれくらいの実力を持っておる? 貴様が選んだ戦士だ、さぞ素晴らしい実績がある筈だろ?」
ベルセルク王は興味深々な様子でアリーゼに問いかける。すると、アリーゼはベルセルク王に100点満点の答えを出す。
「この世界最強の私に一本を取るほどの実力です」
それを聞いたベルセルク王は驚いた様子になり、
「アリーゼ、貴様それは本当なのか?」
「全くもっての事実です。私の首元にある少しの刃の傷がその証拠です」
アリーゼの言葉を聞いたベルセルク王は、興味深々な様子のまま口を開いた。
「驚いた、500年以上生きてほぼ無敗と聞いた貴様が負けるとは……おいミズシマよ!」
「は、はい!」
「あのアリーゼに一本を取ったのだ! これは人類で成し遂げられなかった事だ、誇っていいぞ、我は強い! とな! ガハハハハハハ! どうだミズシマよ、いつか俺と決闘をしようではないか!」
「あ、ありがとうございます!」
あ、危ねぇー! アリーゼのお膳立てがなかったら私絶対危なかった! てか、アリーゼ、500年以上生きてんの?! てめちゃくちゃババアじゃん!
そんなことを思っていると、ベルセルク王は少し困ったような顔をして、
「アリーゼとその一行よ、すまないが、少し……いや結構大きめな任務を貴様らに課したくてな」
「任務ですか?」
「あぁ、ここ最近、他の国から来る輸入品がある竜達の仕業で滞ってて王国に食材や石炭などが行き届いてないのだ」
「その竜達の名はなんと?」
アリーゼが鋭い目付きでベルセルク王に聞くと、王は淡々とその竜達の名を言っていく。
「
「承知しました、ベルセルク王。私達勇者一行がその望みを叶えて見せます」
「うむ、頼んだぞアリーゼとその一行達よ!」
※
「はぁ〜疲れたぁ〜」
王宮から出た私は王室での緊張感に疲れ、思わずそう言葉を漏らした。それを聞いたアリーゼは健やかな笑顔を見せて、
「でも良かったじゃん、ベルセルク王に気に入られて!」
「アリーゼ、私気に入られるどころか決闘まで申し込まれたんだけど……てかアリーゼて500年以上生きてたんだ、驚いたよ」
「あぁまあエルフは不老だしね〜、でもムートも250年くらい生きてるよー? まぁベルセルク王が驚くのも無理はないよ。だって生きてきた500年間私はほぼ誰にも負けたことないのに、人類史上初めてミズシマちゃんが一本私から取ったんだもん。いわば歴史的瞬間なようなものだよ」
アリーゼは満足気な表情を浮かべて、感心したように言った。
「ねぇ所でベルセルク王が依頼してきた竜の討伐はいつ行くの?」
「うーん、まずミズシマちゃんの武器を新調してからかな?」
「ん? それってどういう意味?」
「そのまんまの意味だよ、テストの時戦ってて気づいたんだよ、その剣はもう使い物にならないって」
……使い物にならないか。私は思わず背中に仕舞っているお母さんの形見である鞘に仕舞っている剣を見る。
確かにアリーゼの言う通りもうこの剣の刀身はボロボロで、持ち手さえまともに握れるモノじゃない。だけど、この剣にはたくさんの思い出がある……この剣は前いた世界の遺物だから。
そんな名残惜しい顔を彼女に見られてしまったのか、アリーゼは微笑みながらもハァと溜息をつき、
「じゃあその剣を元にして新しい剣を作ってもらおっか!」
彼女がそう言うと、私達はある所で止まった。右に視線を向けると、そこにあったのは鍛冶屋だった。
そして、アリーゼは勢いよくその扉を蹴り開けた。
「頼もう〜!」
アリーゼは勢いよく言って中に入ると、そこに居たのは60代くらいのオッサンがいた。
「なんだアリーゼか、何の用だ? お前の剣ならもう打たんぞ」
「あぁそれは安心して! 打って欲しいのはこの子の剣だからさ!」
アリーゼに背中を押され、私は鞘にしまっていた剣を鍛冶屋のオッサンに見せる。鍛冶屋のオッサンは片眼鏡を光らせ、じっくりと私の剣を見つめる。
「お前名前は?」
「水島咲です」
「この剣、誰に作ってもらった?」
「病気で死んだお母さんから貰った形見です」
「そうか……一応言っとくが俺はありとあらゆる鉱石を使って剣をこの手で打ってきたが、この剣を形作る鉱石は見た事がない。お前これは本当に母親から貰った剣なのか?」
「そうだけど」
「そうか……よし、この剣を作っている同じ鉱石は無いが、似たような材質を持つ鉱石はある。だからそれでこの剣を打ってやろう。金は銀貨5枚だ」
私はアリーゼから銀貨5枚貰い、それを鍛冶屋のオッサンに渡した。
「どれくらいかかる?」
「1時間くらいだ、そこら辺で待ちぼうけでもしとけ」
と、何故か私達は鍛冶屋から追い出される感じで外に出された。
「さて、あとは待つだけ……なにする?」
「俺は早く竜を討伐して早く寝たい」
「私、ちょっとお腹が空いた〜」
私が言うと、アリーゼとムートの方からも腹の鳴る音が聞こえた。
「それじゃ、私の知っているオススメの食べ物屋を巡りながら時間を潰しますか!」
こうして私達はベルセルク王国にある、いろんな食べ物を巡ることにした。辛いチーズが巻かれたような食べ物や、甘いリンゴのような食べ物、私の目に映る食べ物全てが新鮮に感じた。
そんなことをしていけば時間は、当たり前のようにあっという間に過ぎ、私達が鍛冶屋に戻ると、
「ほらこれがお前さんの武器だ」
そう言って、鍛冶屋のオッサンは私に布で包まれた剣を投げつけた。私がその巻かれた布を取ると、そこにあった剣はまさにあの日お母さんから渡された美しい剣と同じ姿をしていた。
あまりの精巧な作りに見惚れていると、剣の持ち手部分に宝石のような物が埋め込まれていた。
「これは?」
「それは魔法石だ、その魔法石はその剣を持っている人間の魔法をある程度まで強化してくれる代物だ」
「……なんか良い意味でダサいね」
「勝手に言ってろ」
その剣の仕上がりに私は思わず頬を緩ませてしまう。そして、目から流れる何かを拭いだ。
「さ、そろそろ竜の討伐に行こうか」
「はい!」
※
「ガタガタガタガタガタガタガタガタガタ……さ、寒い」
極寒の吹雪の中で私は体を震わせながら言った。な、なんでさっきま暖かかったのに! 厚着を着ても寒い中で私は、
「ヒイィ! 凍るゥ! アリーゼ! な、何でこんなに寒いの!? さっきまで暖かかったじゃん!」
「ミズシマちゃん知らないの? これ雪原竜の仕業なんだよ。名を残す程の強力な竜になると、気象や気候を変えることができるんだよ。——ま、この寒さによる手の痺れの痛みも最高に気持ちいいけどね!」
「アリーゼ! 馬鹿なこと言ってないで真面目にやって——ッ!?」
「「——ッ!」」
私達が吹雪の中で山を登っていると、突然、狼のような大きな遠吠えが辺りに響く。
——その次の瞬間だった、私達の目の前に現れたのは、全身に真っ白な銀の鱗を身にまとった、黄色く輝く不気味な目を持った竜が現れた。
「ミズシマちゃん、死ぬ覚悟は出来てるはずだよね?」
アリーゼは真剣な眼差しを私に向ける。当たり前じゃんか! こちとら死ぬ覚悟でアイツを探してるんだから!
私は寒さで震える体を奮い立たせ、背中の鞘から剣を抜く。
そんな私を見たアリーゼも黄金に煌めく剣を抜き、ムートは背中で背負っていた重そうな斧とハンマーを二刀流で構える。
私達が臨戦態勢に入ると雪原竜は、高らかと私達に向けて鼓膜が揺れるほどの咆哮をする!
その咆哮と同時に私達はスタートを切った。
フィジカルブースト!
即座に身体強化の魔法を唱えた時、いつもよりも凄まじい程の力が込み上げてくる。これが魔法石の力か! 面白ぇ!
私は足にめいっぱい力を入れ、雪の台地をかち割る。そして、雪原竜の間合いに入った私は、瞬間的スピードで竜の体を横に深く斬る。
一方でムートとアリーゼは雪の台地を滑り、ムートは空高く飛ぶと、持っていた斧とハンマーで重い斬撃と一撃を竜にぶつけ怯ませる。
——が、竜は怯みはしたが、その数秒後には体勢を整え、絶対零度はありそうなブレスを私とムートに向けて放つ。
しかし、私達は二手に分かれてそれを避ける。
竜の吐いたブレスの跡を見ると氷河を作り出していた。あんなのに当たったらヤバいだろうなー。
私が走りながら、そんなことを考えていると、雪原竜は突然二足歩行で立ち上がる。そして、自身の尻尾や爪、体に氷のブレスを吐き、鋭利な氷の尻尾と鉤爪を創り、体には氷の鎧のようなものを纏った。
さすがに知恵はあるか! だったら!
「その身ぐるみを剥いでやる!」
走っていた足先を竜の方向へ向け、再びスタートを切る!
走っている最中で雪原竜は、鉤爪で薙ぎ払ってくる——しかし、私はその薙ぎ払いを地面を滑りながら避け、竜の鉤爪を滑る直前で剣の刀身で破壊した!
そんな吹雪の中でかすかに見えたのは、アリーゼの姿だった。
彼女は戦いを楽しそうにしながら、無防備になっていた竜の背中の鎧を刃で斬り刻み破壊していく!
竜はアリーゼの気配を気取ったのか、鋭利な氷の尻尾で彼女に向かって攻撃を図る。
——が、そんな容易い攻撃が彼女に当たる訳もなく、アリーゼは閃光の数千の斬撃を竜に食らわせる。
鎧を完全に破壊された竜は怒り狂った様子で、二足歩行で立ち上がり、アリーゼだけを標的にし、彼女に向けて絶対零度のブレスを勢いよく放つ。
「アリーゼ!」
「そうこなくっちゃー‼︎」
アリーゼは楽しそうに言うと、持っていた剣の刃で意図も容易くブレスを真っ二つに切り裂いていく。
彼女はそのままの勢いでブレスを切り裂く。そして、雪原竜の口まで刃が到達すると、竜の口から体を縦真っ二つに斬り裂いた!
雪原竜の体が真っ二つになり倒れる。
「や、やった……」
身体強化の魔法のせいか、それか運動したせいか、さっきまで寒かった体が暖かくなっていた。
白い息を何回が吐いていると、アリーゼはこちらへ振り向き、
「晴れるよ」
と彼女が言うと、その言葉に空が答えるように、曇っていた空から一筋の光を出て、そこから一気に晴れ渡って行く。
雪原竜が死んだことで、吹雪は止み、振り積もっていた雪もすぐに溶けて消えた。
辺りの光景を見ていると、私たちは既に山の山頂の近くまで登っていたようで、そこからは夕焼けの絶景が見えた。
そんな絶景を見ていると、アリーゼは私の肩とムートの肩を抱き寄せ、
「良かった、私も一生のうちにこんな絶景を仲間と一緒に見られるなんて……」
と、いつも笑顔で笑っている筈のアリーゼの目には涙が溜まっていた。そして、彼女はそれを拭い、
「さ! 今日は帰って寝ようか!」
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