第2話 港へ
沈み行く車内の中でもがき足掻く二人。
シートベルトを水圧カッターで切り刻み、窓を蹴破って出る。
二人して上を目指して泳いで息も絶え絶えで岸辺に体を乗り出して上がった。
「ひぃひぃ…ごほっ、前見て運転しろよスカポンタン!」
怒鳴るルビィにサファイアは不満そうに口を曲げる。
「…お前が変なこと言わなければ安全運転で港に着いて今頃船の上だ。」
「変なことってあの時はハッタリでも言わなければ隙を作れなかったんだよ!」
そう言って浜辺に上がり、スーツを絞るサファイア。
それを横目にルビィも上がりジャケットを脱ぐ。
「そういやこの港はマリン婆さんのシマだったよな?」
ルビィが何かを思い出したように呟く。
「げっ、あの女海賊のシマに流れ着くとか今日は厄日か。」
サファイアが青ざめているとタイミング悪く金髪の美しい初老の女性がやってきた。
「あらあらまあまあ、GPSで見られない信号を受け取ったと思って偵察に来てみればダイヤのところの子飼いじゃないかい!」
「げっ!アクアマリンのばっちゃ!」
「これはこれはマダム・マリン。
僕たち、マルタ島に行きたいんですが水上パワードスーツも船も無いんです。」
子犬の様に赤い目を丸めてマダム・マリンに縋り付くルビィ。
二人の顔を交互に見てマダム・マリンは吸いかけの葉巻を勢いよく吸って吹きかける。
「だったら力を示してみせるんだね。」
そう言ってマダムはルビィを今一度海へと放り込んだ!
「ちぃっ!やっぱあんたはそういうやつだよなぁ!」
懐からナイフを取り出してサファイアは襲い掛かるがあっさり蹴り上げられてしまう。
「まだまだ甘いなクソガキ。」
「これで諦める俺じゃねぇ!」
サファイアは腰を捻って回し蹴りをマダムに見舞うがそれも片手で防がれる。
「その隙にルビィが海から攻撃か?」
「見抜かれてる!ヤバいぞ!」
サファイアの忠告も虚しく海から勢いよく飛び出して殴りかかるルビィだがマダムはサファイアの足を掴んで二人を薙ぎ払う!
「ぐっ、何でばれてんだ!
お前が足引っ張るからだサファイア!」
「お前が取り入りろうとするから余計にばっちゃが怒ってパワーアップしてんだろうが!」
二人とも派手に水飛沫を上げて海に沈んだ。
二人ともさらにボロボロになりながらも岸辺に上がりマダムの足元で土下座する。
「お願いします!マダム!
俺たちに海を渡る手段をください!」
「俺の目玉でも腎臓でもいい。
だから金が必要なら俺を担保に何とかしてくればっちゃ!」
必死な二人を見下ろしてマダムは一言。
「なっさけないねぇ。
これがあの裏社会の王、ノース・ダイヤモンドの子飼いかい?
それにこんな軟弱な孫をノースに預けた覚えはないんだけどねぇ。」
サファイアの頭を思い切り踏んでぐりぐりと踵をめり込ませる。
「ぐぎぎ…だったら親父みたいにカタギで漁師やって裏切りにあって海に捨てられろっていうのかよ。
俺ぁダイヤのおやっさんに憧れたからこの世界に入ったんだ!」
頭をふまれながらもサファイアは立ち上がろうと抗う!
「やめてください。
サファイアだけ犠牲にして俺だけ何もせず五体満足でいられるかよ!」
ルビィもマダムの足を掴んで睨む。
「ふうん、じゃあお前は何を差し出せる?片目?片腕?肝臓?」
「俺の命だ。」
マダムの目をまっすぐ見据えてルビィは間髪入れずに言った。
「成程、あたしの孫よりいい男じゃないか。
まるで若い頃のノースを思い出すよ。
まあ、アンタらは武器に頼り過ぎているからちょいと鍛えてやるよ。」
「時間がないんだ!船だけでいいよばっちゃ!」
サファイアから引いて無線でどこかに連絡を取るマダム・マリン。
「ん?取り敢えず俺たちは認められたって事か?」
「ちげーよバカルビィ!
雑用押し付けられるだけだ。」
なんか言ったかい?とマダムがギロリと睨みを効かす。
「いえ、何も!
ところでマダム、俺たちはこれからどうすれば?」
恭しい態度でルビィはマダムに近づく。
「まーだ始まった。
あいつ、筋金入りの女好きだもんなぁ。」
どんなに筋骨隆々なやつでも年老いたしわしわババアでも見境無しに口説きやがる。
だが、あいつが唯一口説かないのがティーンエイジャーだ。
何かの思い入れがあるのかしらねぇがたまたま助けた少女に求婚されても「俺ぁ、ロリコンじゃねぇからな。もちっといい女になってから口説きにこいよ嬢ちゃん。」と軽くあしらった。
顔は笑っていたが目はどこか遠くを見ている様だった。
「おうい!サファイア!
俺らはまず甲板の掃除からだってさー!」
先に船に乗ったルビィがこちらを向いて手を振る。
「あーハイハイ。
ったく、ちゃっかりしてんなぁ。」
俺はボリボリと頭を掻きながら上船するのであった。
一方でジルコニア陣営はと言うとドローンを飛ばして子飼い二人を探している。
「くそッ、あいつら叔父上が渡したGPSも壊してやがる!
遺産が有れば俺だって成り上がれるんだ!」
イライラしながら逆襲の手立てを考えるジルコニアの顔には余裕がない。
【To be continued】
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