最終話 幸せな生活


「王国の前まで魔族軍が進行して来たらしいぞ!」


「いよいよ、王国も落ちるのか」


「期待の異世界人は使い物にならないからな……今度こそやばいんじゃないか?」


街に居ると色々聞こえて来るけど、もう僕には関係ない。


亜夢の中に居るリリネルが現魔王と念話で話して『お互いに不干渉』という事で決まった。


だから、もう魔族を怖がる必要は無い。


それどころか……


『これはなに』


『オークなりの歓迎みたいですね……最早魔王みたいな物だから、そりゃこうなります』


ただ、森の中を歩いていたのに……オークに遭遇して、そのまま巣穴に連れて来られた。


目の前でひれ伏しているのがオークキング。


そして、僕の前に沢山のご馳走が並べられている。


『貴方様の様な尊き御方に出会えるなんて、このオーキン感動でございます……宴を開きますので……』


『すまないね、僕はこれから仕事があるんだ。悪いけど、これを食べたら行かせて貰うよ』


『そうですか……お仕事とはどんなお仕事でございますか? 我らオークで出来る事なら協力させて頂きます!』


『あはは……自分じゃないと無理だから良いよ』


『そうでございますか。それではせめて、我らの貢物を受け取り下さい』


『解った……ただ苗床女は要らないから、人間の持ち物でオークにとって要らない物だけにしてくれ』


『承知しました』


こう言わないと本当に不味い。


オークと人間で価値観が違う。


こう言っておけば魔物にとって必要ないお金や宝石だけが貰える。


変な肉や野菜を貰っても仕方ないし……苗床になっている女の子を見ると心が痛む。


だが、オークにとって繁殖に必要なのも事実。


自分に良くしてくれる存在から取り上げるのも、また心が痛い。


だから……見ない事にする。


奥から女の子の悲鳴が聞こえてくるが……僕は聴かない、見ないで通す。


『これで宜しいですか? 我々には要らない物ばかりです』


金貨、銀貨に宝石……上等上等。


『それで充分だよ……ありがとう』


『どう致しまして、またなにかありましたら何時でも立ち寄りください』


亜夢の中に魔王や魔族が居るせいか魔物は好意的で人間以上に優しい。


そして、僕たちは今、帝国を越えた先の小さな街についた。


魔族がここにたどり着くには、王国を滅ぼし、聖教国を滅ぼしてくる必要がある。


だから数百年は掛かる。


尤もそうなった所で、僕には関係ない。


だって、今の僕は『魔族の中でも普通に暮らせる』


◆◆◆


「お前、良さそうな鎧を着ているな……金と鎧を置いていけ」


「そうか……じゃぁ『ばい菌』」


「うわあああっあああっ……俺の体が溶ける」


レベルが上がった僕の『ばい菌』は一瞬で体を溶かし殺す。


「貴様、殺すぞーーっ」


「『腐る目』」


「うあわぁぁぁぁーー目が痛ぇぇぇぇーー」


腐る目は一瞬で視力を奪い死に至らせる。


皆の力を借りないでも簡単に相手を殺せてしまう。


最近、スキルを使うのは魔族でなく盗賊を含む人間ばかりだ。


はぁ~まるで自分が魔族にでもなったみたいだ。


◆◆◆


『聖夜』


『聖夜くん』


『聖夜様』


『聖夜くん』


『聖夜』


また夢の中か……

だけど、夢の中でなら皆に逢えるし、いつも亜夢として皆が僕の傍に居てくれる。


僕が欲しかった物。


地位やお金じゃない……


いじめられ1人だった僕は『何があっても傍に居てくれる存在』それが一番欲しかったんだ。


『亜夢、来夢……愛しているよ』


『聖夜』


『聖夜くん』


『『『『『ちょっと、私達は』』』』』


『勿論、皆、愛している』


だから、今の生活こそが僕がずうっと欲しかった生活だ。


うん、僕は……幸せだ。



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