第65話 亜夢②


亜夢には隣の部屋に行って貰った。


尤も、ただ目の前に居ないだけで、恐らく話の内容は筒抜けだと思う。


『それで亜夢はなんで、あんな状態だったのかな』


『見ての通りよ。亜夢の体には色々な人物がいる。その中には『超回復』みたいな能力を持っている存在もいるからね。亜夢を押さえつけておくには絶え間なく拷問をしておくしか無い。そんな所だと思う』


『そんな』


それじゃ亜夢は、あんなに非道い状態になる拷問を受け続けてきたのか。


『あの回復を見たでしょう? 女3人を吸収して1日で復活。近くに女が居ない場所でも首1つから数週間で体が復活するの。基本殺せないの亜夢は』


『亜夢は……』


『女癖の悪い魔王デウスが倒した、女勇者が綺麗だったから惜しく思い、その体から作った生物。魔族であって魔族でない、しいて言うなら魔導生物ね』


『……』


『魔王デウスがね、何時でも連れて歩ける究極の女を作りたくて他の女を取り込む事により、瞬時にその女性の姿かたち、性格になれる『究極の恋人』に調整、製作したみたい。だが、一つ違っていたのは、姿形、性格だけじゃなく亜夢は『その能力』まで全部自分の物にしてしまう事。そして逆らうだけの自我があった事なの』


おかしな……それだと、勇者は兎も角魔王は手に入らない気がする。


『だけど、それじゃ魔王は手に入らないんじゃないかな』


『それが問題だったのよ! 亜夢は先の魔王である引退した魔王の母親と、デウスの妻、娘も食べちゃったのよ……』


『それで……』


『幾ら、色ボケした魔王でも家族は別。家族を失った魔王デウスは亜夢を殺そうとしたんだけど、殺せなかったのよ……それ処か、自分を討伐に来た高位魔族からまんまと逃げだし、仕返しに、討伐に参加した魔族の妻や娘を襲い次々と『融合捕食』していった。その中には高位魔族も沢山居たらしいわ……結果、融合された女魔族や巻き沿いになった人間の女は100を超え、魔王デウスはその争いで死に、魔族は千近い犠牲を払って、どうにか亜夢を捕らえた』


とんでもない話だ。


『凄い話だね』


『凄い話よね! 捕らえられた亜夢は手足を奪い取られ、魔王デウスの後をついだ次の魔王様の指示で、そのまま拷問の日々を送っていた。そんな話よ。亜夢は殺す事も出来ないし、油断すると再生するし、再生しきった亜夢相手だと莫大な被害がまた出るから交代で体を切り刻んだり焼いたりしてあるいは薬品で溶かしたりして再生を防いでいた。そんな感じだと思う』


それで、あんなひどい事になっていたんだ。


『それで来夢、なんでさっきから『思う』と疑問形なんだ』


『だって、亜夢なんて大昔の伝説だし、見たのは私も初めてだからね』


『一応、確認の為聞くけど……来夢は亜夢に勝てるの』


『あはははっ、肉体があった時の話よね!瞬殺で殺されるわよ!』


嘘だろう。


魔族の幹部である来夢が瞬殺。


『あの……そんな亜夢を解き放って大丈夫なのか……』


もしかしたら、魔族、人族以外の恐ろしい存在を復活させてしまったんじゃないか。


『貴方は大丈夫よ。血を彼女に飲ませたでしょう? 彼女は魔導生物。ちゃんと契約さえすれば従順で尽くしてくれるはずだわ』


『それなら、なんで誰も契約しなかったんだ』


『そうね、その気になれば魔王すら倒せる武器みたいな生き物、誰か1人の物に出来ると思う』


『確かに……』


あれ、おかしいな。


『そうでしょう』


いや、待て、契約者に従順なら、何故魔王デウスは殺されたんだ。


それに「家族に手を出すな」と命令位出来る筈じゃないか。


『いや、矛盾してないか? それならなんで魔王デウスは殺されたんだ』


『あれ!? なんでだろう? 』


『あはははっ……だってあの契約は愛しあう契約だからだよ! お兄ちゃん』


『『亜夢』』


『あの契約はね亜夢がお兄ちゃん1人の物になった契約なの。 愛人、恋人? つまり最愛の人間になった契約なの』


『......』


『そうなの……だけど亜夢は凄く尽くし、大好きな人の為なら何でもしてあげるよ。だけどね、亜夢はワンサイドゲームって嫌いなの。だから、亜夢がしっかりお兄ちゃんに尽くした分は亜夢に返して欲しいな(てへっ)』


『えっ……』


『来夢ちゃんは勘違いしていたみたいだけど、あの契約は服従契約じゃないよ? 『愛し合う契約』簡単に言えば人間で言う、絶対に破れない結婚みたいなものかな! さっき2人が話していた答えでもあるんだけど魔王デウスには妻がいたから亜夢には使えなかったの。という訳でお兄ちゃん……これからも亜夢をお願いしますね。お兄ちゃん!』


『お願いします……』


これ、本当に大丈夫なんだろうか。


ブイサインで無邪気に笑う亜夢は凄く可愛いんだけど……大丈夫なのかな。



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