第63話 正体不明

奴隷商の男を呼び出して話を聞いてみた。


「この子なんだけど……」


「ああっ、それ……そろそろ廃棄予定の奴だな。まさか買うのか? 欲しいなら無料でやるよ! 尤も国の決まりで奴隷紋を刻まなきゃならないから銀貨3枚は掛かるけど……冗談だ! こんなの買うわけないな」


「いや、確かにそうだけど、なんでこんな状態で此処に居るのか気になったんだ」


「魔族と王国が今戦争が激化しているのは知っているよな? 魔族の屋敷を攻略をした時に地下室に他の奴らと共に居たらしい。全部で幾らという取引きだったので引き取らざる負えなかったんだ」


そうか……もう死ぬのも時間の問題だな。


「そうですか」


「布でもかけて使おうとしても無駄だぜ! あそこも、肛門も悲惨なもんだ。尤も鎧の上から火で焼かれたのか、恐らく他の体も大火傷状態だ……いつ死んでもおかしくない」


これは幾らなんでも駄目じゃないかな。


もう息をしているだけの死人にしか見えない。


『これはどう考えても助からないな』


『この子は死なない。それは保証してあげる』


『この状態で死なないのか』


『絶対に死なないわ。それは保証してあげる……さぁどうする?』


『どうするって……彼女について教えて貰えないのか?』


『そうね、彼女は『裏切り者』全てを裏切った存在。何故此処に居るのか解らないけど……私はギャンブルが好きなのよ! ここから先は貴方が買ったら教えてあげる。逆に買わないなら何も彼女について話さないわ』


目の前の彼女を見る。


元は凄い美人だったかも知れない。


だが、今は手足は無く目も抉られていて無い。


鎧から両目が無い首が生えている状態だ。


しかも聞いた情報では、体も火傷状態。


リリアの時とは違う。


リリアは顔は焼けていても家事は出来て手伝って貰う事が出来た。


この子は……何も出来ない。


恐らく、こちらが介護しなくちゃならない。


だが……この子の謎が凄く気になる。


「無料なんですよね……なら買います!」


「マジか……お前さん、そんな顔して変態かよ。まぁ良い廃棄する手間が省けて奴隷紋代が手にはいるんだ文句はない。そら銀貨3枚寄越して、このナイフで指を切って血をくれ……あとその状態だから直ぐに死んでも保証は無いからな」


「解りました」


つい勢いで買ってしまった。


同じ様な過ちを前にもしたような気がするけど……まぁ良いか。


◆◆◆


しかし、周りの視線が痛いな。


そりゃそうだ……手足が無く両目を抉られた女の子を抱えていれば、そういう目で見られても仕方が無い。


ちなみに、もう2回も憲兵に声を掛けられた。


奴隷紋と書類がなければ、牢屋に入っていたかも知れない。


宿屋に帰る前に一旦、外に出て草原に来た。


流石に、彼女を抱えたまま街中で来夢と交信したく無いし、事情を知らない状態で宿屋にも戻りたくない。


『さぁ来夢、彼女を購入したよ。どう言う事か教えてくれ』


『そうね、彼女を購入した事は貴方にとって運命の分かれ目だった。これは確実よ!』


『それで彼女は一体誰なんだ! 賭けとはどう言う意味があるの?』


『そうね、もう運命のサイは投げられてしまったのね。まずは奴隷紋の時の様に指を切ってから血を彼女に飲ませて』


『え~と』


『良いから!』


頭に浮かぶ来夢が怖い顔をしていたのでいう通りにした。


すると彼女はまるで赤ん坊が母親の胸からミルクを飲む様に僕の指の血を飲み始めた。


『これで良いの?』


『ええっ、良かったわね。まずは最初の賭けには勝ったみたいね……あとは、これから起こる現実を受け入れられるかどうかね』


『何が起こるの』


『それは後日のお楽しみよ』


結局来夢にはぐらかされ、彼女の正体は教えて貰えなかった。

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