第53話 棲みつく


「……」


確かに体と頭は切り離した。


普通に考えて死んでいる状態だ。


だけど、心の中の何かが『まだ終わっていない』そう言っている気がする。


これはきっと『虐められていた』からの直観。


危機がまだ過ぎ去っていない気がした。


跳ねた首を見るが……見た感じ死んでいるようだ。


体も首から血を流しながら動いてない。


どう考えても死んでいる様な気がするが……何かがおかしい。


確認した方が良さそうだ。


グラマラスな褐色の体を蹴った……反応は無い。


まぁ腐り始めているからこれで生きている筈がない。


後は、首だ。


近くで見ると……凄い美人だ。


羊の様な角がなければ、人間と変わらない。


前の世界なら、旅行のポスターで水着を着ていそうな美人だ。


健康美人というのはこう言う感じの人間を言うのかも知れない。


「美人なのに、勿体ない」


殺した僕が言えた義理ではないけど。


そっと、手を触れると目がかすかに動いた気がした。


「こいつ、生きているのか……」


「気がついたのね……でももう終わりだわ。 体は切り離された後でも腐っていくのが曇った目でも見えるわ……目ももうすぐ完全に見えなくなるし、話している今も頭が痛いし意識が薄れていく……負けよ……負け……」


首を切り離せば死ぬと思っていた。


これじゃ『楽に死なせてあげる』という約束すら果たしてない。


「すまないな……楽に殺してやると言いながら……」


「ふふ、あはははっ貴方お人よしだわね! 自分を殺そうとした奴の心配なんて……あはははっしかもあんた、凄く不幸じゃない?」


「なっ」


「ふふっサキュバスは夢魔……その頂点の王族の私が心を読めない訳が無いでしょう? 貴方は人を信じられないのね……取引をしない? チャンスは3分位ね」


取引?


「もうじき私は死ぬわ……だけど、このまま死にたくはないの……だから、貴方の中で私を飼わない?」


飼う?


どういう事だ。


「飼う」


「サキュバスの上位種は体が全てじゃないわ……サキュバスの本来の姿は夢魔。夢の中に住み生きる事も出来る。まぁ、そんな事が出来るサキュバスは今や王族の血を引く私位。他の劣等種のサキュバスじゃ出来ないわ」


「僕にどんなメリットがある……心を奪われ殺されるだけじゃないのか?」


「貴方が死ねば、その心に住む私も死ぬから、そんな事しないわ? サキュバスの王族を心に飼えば、人間でありながら、インキュバス並みに魅力的になるわ……そして心が読めるから、人に真意がわかるわ。人が信じられない貴方には魅力的じゃない?」


「そんなの……偽りじゃないか」


「ちがうわ! 最初は偽りでも、サキュバスは『本当に愛されるの』 命がげで全てを捧げてくれる位にね……」


「本物の愛?」


「そう……本物……そろそろ3分。流石の私もそろそろ消えるわ……もし、受け入れるなら私にキスをしなさい……そうすれば貴方の中に移るわ」


駄目だ……今の僕にはこの取引は魅力的過ぎる。


僕は……生首になった彼女にキスをした。


「ううっ……ハァハァ」


頭と心臓に痛みを感じた。


『まさか騙されたのか……』


『騙してないわ……そりゃ異物が入るみたいな物だから少しは苦しいわよ……まぁ、乗っ取ることは出来ないから安心して良いわ……それじゃ、私は暫く眠るから……またね』


つい受け入れてしまったが……大丈夫なのか?



聖夜

LV 34

HP 500

MP 390

ジョブ:ジャームズマン(ばい菌男)

スキル:翻訳、アイテム収納(収納品あり)空気人間 お葬式ごっこ ばい菌 亀人間 下級人間 腐る目 物隠し 風評 要求と罰 魅了 無限の精力 読心 性技術

使い魔:来夢(来夢)サキュバスクィーン 脳内寄生 



なんだ、これ……


心の中にさっきの女魔族が棲みついたのは解る。


だが、おかしい。


心の中に棲みついた存在が見えるのだが……どう見てもさっき迄の姿じゃない。


う~ん……黒緑色の髪を後ろで束ねていて白いシャツに赤いスカート。 色白で……どう見ても小学生の高学年から中学生に見える。


『なんだこれ』


『う~ん、流石に体を失ってすぐだから、眠いのよ……なにかよう?』


『あの、姿が……』


『あっ、こっちが私の精神体としての姿だよ! あれは現世で受肉した姿……こんな体に見えてもサキュバスだから……安心して良いから……ふぁ~あ、お休み』


寝てしまった。


まぁ害はないようだし……本当に害は無いよな?


大丈夫だよな……




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