第49話 二人の気持ち


これで、どうにか時間を稼げた。


そろそろ、この街を出て行った方が良いかも知れないな。


王都近くで、あの洞窟が近い。


そして……戦場が近くて、王国は魔族との戦争の中心にある。


『うん、こんな物騒な場所、お金が溜まったら逃げよう』


その前に、やらないといけない事がある。


話し合いだ。


◆◆◆


宿屋。


「塔子と綾子に聞きたいんだけど? この生活のままで良いの?」


「あの、それはどう言う事? 聖夜?」


「聖夜くん、私はこの生活で充分だよ……お世話になっているしね」


「そろそろ、この街を出ようと思うんだ。もし、今の生活にが嫌なら辞めるチャンスだよ! 奴隷から解放してあげるから城に行けば、塔子は回復師としての生活が歩めるよ! 綾子も塔子と一緒なら受け入れて貰えるんじゃないかな?」


僕が彼女達を使って戦っているのを知っているから『利用価値』が解った筈だ。


今ならきっと受け入れて貰える。


「私は……聖夜と一緒が良いわ」


「うんうん、私もその方が安心だし……このままで良いよ」


「あのさぁ、僕は二人を奴隷に落としたんだぞ? そのうち一緒に居たら『使う』かも知れないよ? 僕から離れた方が、恋愛も含め沢山の自由がある、目は見えなくても幸せな人生もあるかも知れない。離れた方が良いんじゃないか?」


「聖夜……使いたいなら使えば良いわ。 沢山お世話になっているからね。実際に差し出せる対価はそれしかないんだから……良いわよ? それに私、多分貴方の事嫌いじゃないから」


「うんうん、最初から私は相手するって言っているじゃん? 童貞を捨てたいなら何時でも貰ってあげるからね?」


「あのさぁ……それは目が見えないし、それしか生活出来る方法が無いから言っている事じゃ無い? たとえば目が見える様になったら離れて行くんじゃないの? 真剣に考えた方が良いよ? いまが僕から離れて生活出来る数少ないチャンスだ。王国の管轄する場所から離れたら、もうチャンスは無いよ……嫌でももう一緒に居るしかないんだよ」


「そうね……それでも私は聖夜、貴方と居るわ。 目が見えなくて性格の悪い女を貴方は面倒を見ているのよ? 今の私は……人としても女としても終わっているわ。リリアさんを購入する前は、貴方はそんな女の下の世話まで見ていたのよ? 聖夜……貴方、私が憎いんじゃないの? 前の世界で私は貴方に凄い嫌がらせをしていたわ。 正直言って、引き取って貰った時、恐かったわ。 これから復讐されるんじゃないか……私の心の中では暴力を振るわれて犯されボロ雑巾の様にされるんじゃないか。そう思っていたのよ! それなのに、貴方は……そんな事しなかったわ。 嘘はつきたくないから本音で言うわね。 これが愛や恋なのかは解らない。南条に生まれたから、私はそう言う感情が薄いのよ。 今迄貴方に言っていた事は嘘を含むわ……だけどね、今迄出会った男のなかで一番好きなのは、多分、貴方よ! 少なくとも抱かれても良い。その位の感情はあるわ」


「塔子……」


「あはははっ、私はもうかなりの事は経験済みだから自分の体にそんな価値は無いと思っている。 真面目に抱きたいなら何時でも抱いて良いし、エッチな事したいならなんでもしてあげるよ? 最初から言っているんじゃん! これは目が見えないから言っているんじゃ無いよ? 私も聖夜くん……好きだよ」


「それは目が見えないから……」


「それもある! だけどね、今の私の世話なんてきっとしてくれるのは家族だけだと思う……絶対に恋人や彼氏だって下の世話までは出来ないと思う。きっと大河なんて同じ状態になったら見棄てる筈だよ! そんな状態の私を聖夜くんは見棄てずに傍においてくれた。 只の同級生……うううん、聖夜くんを裏切って虐めていた最悪の女、それが私だよ……そんな女を養ってくれているんだから『優しい人』なのは良くわかったよ。目が見えなくなったから知った事かもしれないけど……私、本当に聖夜くん好きだよ……大体今迄だって『犯って良い』って言っているのに未だにそういう事して来ないじゃない? 凄く誠実なのが解かるよ。私は聖夜くんの傍にいるよ。約束する。もしこの目が奇跡的に治ったとしても離れる気はないからね」


「綾子……二人とも良くわかったよ。多分近いうちに旅に出るから、もう引き返せないよ?」


「引き返す気はないから」


「私も同じだから」


「わかった」


本当の気持ちは解らない。


だけど、覚悟だけは良くわかった気がした。





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