第43話 ある男の話


しかし、貴族って奴は随分なものだね。


女の顔をあそこ迄崩して、それでも幸せになったら『殺せ』だと。


本当に怖いな……


幸せになった。


なんて言っても所詮は奴隷。


しかも顔は確かに治ったが、大きく傷は残っている。


貴族と、貴族の娘で、将来は婿をとって跡をつぐ立場に比べたら……カスみたいなもんじゃねーか。


『正直、気が乘らねーな』


だが、犯罪者ギルドを通しての依頼。


やらない訳にいかねー。


あとはいつヤルかだな。


たかが、女1人殺すだけの仕事。


俺からしたら、大した仕事じゃねー。


こんな誰でも出来そうな仕事が金貨10枚。


『凄く美味しすぎる』


そう思っていたが……


なんだ、彼奴は……


あの濁ったような目。


全てに絶望した奴の目だ。


まるでそう……腐った様な目。


ああいう目をした人間は、そうそう居ない。


もしかしたら『俺と同類』なのかも知れない。


恐らく、顔色一つ変えずに人が殺せる様な人間だ。


そんな、恐ろしい敵があの女の傍に居た。


そして、そんな奴が……あの女には優しい。


彼奴から、あの女を奪ったら、きっと地の果てまで追いかけてきそうだ。


ハァ~貧乏くじを引いてしまった。


あの女……リリアを殺すと言う事は彼奴を敵に回すって事だ。


ならば、二人一緒に殺すしかない。


『勝てるのか?』


この世の全てを憎んでそうな目の男。


ああいう男は、簡単に殺しにくる。


俺があの女を狙っていると解れば……俺を殺しに来る。


だから、チャンスは1回だけ……あの男に気がつかれる前に殺る。


仕損じて失敗したらこっちが殺される。


金貨10枚の楽な仕事の筈が金貨100枚でも割りが合わない仕事になってしまった。


俺は彼奴を殺せるのか?


金貨10枚じゃ……女を殺して逃げるには割りがあわねー。


先に女を殺したら、後手に回り殺られる。


ならば、先に男を殺すしかねーが……


あの悪名高き『死霊の森』にすら鼻歌まじりで平然と入る化け物。


あそこは……本当にヤバい。


恐ろしい魔物が沢山居るんだ。


それだけじゃない。


油断すると俺ですら存在が追えなくなる。隠形。


完全に気配を消す彼奴は……もしかしたら俺以上にキャリアを積んだ暗殺者かもしれない。


油断する瞬間を狙うしか勝ち目はねーな。


◆◆◆


なんなんだ此奴は……


目の見えない女2人、まさか飼っているのか……


これはハーレムじゃねー。


遠くから様子をみていたが、一緒に居る女に向けている目。


優しさが無い。


寧ろ憎しみの籠った感情で女を見ている。


それなのに、顔には出さずに世話をしている。


『何を考えている?』


まさか、手元に置いて復讐でもしているのか?


俺はこいつに恐怖すら感じる。


不気味だ。


様子を見ながら……チャンスを狙うしかない。


◆◆◆


犯罪者ギルドにて……


「依頼がキャンセルされた?」


「ああっ、依頼主が死んだ」


「まさか……殺されたのか?」


彼奴に先を越された、そういう事か?


「いや、二人して何かの疫病に掛かったらしい……お前が早く殺らねーからこんな事になるんだ。依頼不達成……報奨金は払えねーし、悪いがランクを一つ下げさせて貰う」


「解った……」


これで良かったんだ。


あの魚の目が腐ったような男とやりあわないで済んだのだからな。


それに、元から不幸な女を殺すのは……あまりやりたい仕事じゃ無かった。


死ぬかもしれねー戦いからの解放なら、この位安いもんだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る