第30話 冒険者篇スタート 利用価値

結局、王都に行って、すぐに塔子と綾子を連れ、奴隷商にいった。


「いらっしゃいませ、本日はどう言ったご用件で?」


チラリと奴隷の入っている檻を見たが、やっぱり高い。


乱雑に檻に入っている僕の親位の人間が金貨20枚(約200万円)位していた。


騎士が言っていた奴隷は高いという話は本当だったようだ。


「この二人に奴隷紋を刻んで欲しいんだけど」


「お二人は同意しているのですか?」


「同意しているよな!」


少し強い声でいうと2人は……


「ええっ同意しているわ」


「しているよ」


少し不貞腐れた感じで答えた。


まぁ、不本意なのは解るが、今更捨てられたくはないから、同意を拒めるわけ無いよな。


「同意しているのなら結構です。それでどちらに刻みますか? 女性の場合はお尻、太腿、肩辺りが一般的ですが」


「そうだな、顔、具体的には頬っぺたに入れてくれ」


「顔……」


「顔に入れるんだ……ははははっ」


「あの、本当に宜しいんですか?」


奴隷商が怪訝そうな顔でこちらを見て来たが気にはしない。


「ああっ、構わない、頼む!」


二人が少し悲しそうな顔をしたが僕は全く気にはしない。


どうせ、目が見えないんだし、この際『所有者が居る』事を誰からも分かるようにした方が良いだろう。


「そうですか? それでは二人分で銀貨6枚になります。あとこちらのお皿に少量の血液を下さい」


「解りました」


僕は血液を奴隷商が差し出した皿に同じく渡された小刀で指を傷つけて垂らした。


奴隷商はその血を墨に混ぜて筆で二人の頬っぺたに変った模様を描いた。


「終わりました。これで、誰が見てもこの二人の所有者は貴方だと解ります」


「ありがとう」


それだけ伝えると僕は二人の手を取り奴隷商を後にした。


ちなみに奴隷紋には拘束能力は無く、所有者を示すだけだ。


「それで次はどうするの?」


「どうするのかな?」


顔には出さないようにしているが、二人ともかなりのショックを受けたみたいだ。


目は見えなくても顔に刺青みたいな物を入れられたんだ。


女ならそれなりにショックを受けるのは当たり前だよね。


だが、これで良い。


見えない所に刻むより誰から見ても解かる場所に刻んだ方が、なにかと便利だ。


「本当は防具を買いたいが、今の所はお金が心許ないから貰った物で頑張るしかないな。後は丈夫な紐を買って二人を縛って、試しにどの位動けるか試してみようと思う。うまく動けるなら、この戦い方専用の防具を用意しても良いかもな」


「あの……もう討伐にでるの?」


「一日位休まない?」


「いや、貰ったお金が金貨6枚(約60万円)しかないから直ぐに稼がないと不味いんだ。だから、こんままどの位動けるか試さないと、早く行動しないとジリ貧だからね」


ちなみにお城から貰った身分証明書は冒険者証でもあるから、改めて冒険者登録は必要ないみたいだ。


勿論ランクは一番下だけどね。


◆◆◆


紐を買ってから近くの森に来た。


僕は綾子を肩車し塔子を背負った状態で紐をかけた。


「いい? 今から綾子はA(エース)塔子はT(ティー)だ。これからは三位一体でやるからな」


「わかったわ」



「解ったよ」


この状態で森を散策した。


森なら洞窟と違い、それほど多くの魔物と出会わないで済むからだ。


試しに戦ってみるのにちょうどよい。


「Aが使える魔法に探索魔法ある?」


「一応はあるけど?」


「そう、それじゃそれ使ってみて」


「わかったわ」


目が見えなくても魔探索法は使えるのか……


「聖夜、私は?」


「僕はSで良いよ! Tは今の所は大丈夫。聖女だから回復は使えるよね? 他に防御魔法は使える?」


「ホーリーウォールって言うのがあるわ」


「いざという時に使えるようにしておいて」


「わかったわ」








レベルがアップしたからか肩車におんぶ、その状態で過ごしていても素早く動ける。


この体勢、肩車しているから視界が悪い。


探索魔法が使えて良かった。


「S、斜め左に3つ魔物の影があるわ」


「了解!」


僕は斜め左に体を向けて様子を見た。


魔物が三体こちらを見ている。


「A 真っすぐにファイヤーボール」


「了解」


綾子が直線方向にファイヤーボールを放った。


前方に居たのはゴブリン。


ゴブリンの一体が炎に包まれて燃えた。


僕はそのまま斬り込み、前方の二体のゴブリンを切裂いた。


やはり、この体勢は良い。


自分以外に魔法が使える存在。


そして薬草やポーションの代わりになる存在。


さらに二人は僕と違って優秀なジョブだ。


目が見えないのをフォローすればレベルが上がれば相当強いパーティになる。


『目の補助』それがあればどうにか戦える。


1人で生きて行くより余程良い。


◆◆◆


結局、あの後も討伐を続け30体近くのゴブリンやオークを狩った。


そして、今は宿をとって二人に水浴びをさせ毛布に包まっている。


「良いわ……好きにすると良いわよ……嫌がってもする気なんでしょう?」


「あはははっ、聖夜って童貞だよね! 私がリードしてあげようか?」


今にも泣きそうな塔子に対し綾子は随分とあっけらかんとしている。


だが……二人とも下着姿で体を震わせている。


「あのな、そう言う事はしないから、ほら寝るよ」


僕は二人の間に入りこみ二人を抱き寄せてあらためて毛布をかぶった。


「ううっ、聖夜」


「あの……しないの?」


いや、塔子は兎も角綾子が震えていたのは寒いからだ。


異世界は物凄く寒い。


エアコンも無いし、安い宿では暖炉も無い。


彼女達を引き取ったもう一つの理由。


それは湯たんぽ代わりにする為だ。


実習中、凄く寒かった。


寝袋なんて良い物は無い、あったのは毛布だけ。


騎士から聞いたら、本当に寒い時期が来たら野営や安宿では複数人で抱き合って眠るそうだ。


まぁ、性格は兎も角『男を抱く』よりまだましだ。


「ただでさえ寒いのに裸になる気はしないよ……」


「……そう?」


「あのさぁ、暖まるなら裸で抱き合った方が多分あったかいよ」


確かにそうかも……


だが、塔子の顔を見ると、今にも泣きそうに見えた。


「いや、これで充分だよ」


二人を湯たんぽ代わりにして、僕は眠る事にした。





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