第17話 レベルアップとめんどくさい女が増えた。
人生とはあっけないものだ。
大河はあれから治療のかいもなく死んでしまった。
僕に触れた場所から腐り始め、指が腐り落ち、手が腐っていったそうだ。
そして、その腐った状態が体に広がり、ただ腐るだけでなく、まるで喘息のように咳き込みながら吐血を繰り返し……死んだ。
その姿はまるでアンデットみたいだったことから、魔王や邪神の呪いだと思われたみたいだ。
この世界にも細菌の知識は多少はあるが、その病気全てを魔法で治していたようで、そういう方面の薬は発展して無い。
大河の治療には、万能薬エリクサールが使われたようだが『それすら効かなかった』そうだ。
この秘薬は城よりも高く世界に数本しか無いそうで、その使用料金は大樹や聖人の勇者パーティに重くのしかかる。
『使う事に同意』したから、彼等が魔王を討伐した折の褒賞から引かれるらしい。
僕が一番殺したい相手は大河だった。
それが殺せたのだからまずは『これで良い』
あとは実習をこなして、一度クラスの奴らから離脱すればそれでおしまい。
その後、復讐を続けるのか?
それとも、復讐は此処で止めて他の生き方をするのか?
少し、ゆっくり考えれば良いのかも知れない。
それよりも驚いた事がある。
大河が死んだことでレベルが上がった。
どうやら人を殺してもレベルがあがるようだ。
聖夜
LV 10
HP 153
MP 126
ジョブ:ジャームズマン(ばい菌男)
スキル:翻訳、アイテム収納(収納品あり)空気人間 お葬式ごっこ ばい菌 亀人間 下級人間 腐る目 物隠し(NEW) 風評(NEW)
しかし、MPがあるのに魔法が覚えられていない。
そして、また正体不明のスキルが増えている。
これもまたどう言うスキルか解らない。
まぁ、今は解らなくても良い。
そのうち解る様になるはずだ。
◆◆◆
問題なのはこれだ。
「あんた! どの面下げて此処に居るの?」
「塔子さん、そう怒んないで……ほら私達友達だったでしょう?」
「『元』よね? 今は一番嫌いな女だわ!」
「そんな……聖夜くんは優しくて正義感があるから、目の見えない私を見捨てたりしないよね?」
「昔の僕ならね……だけど、僕は君を助けようとしたばかりに、地獄の人生を送ってきたんだ……そんな僕が助けると思う?」
「そんな……」
思わぬ誤算があった。
『ばい菌』には人を殺す力があるのに、『腐る目』には人を殺す力がなかったんだ。
確かに自分が受けたいじめがそのままスキルになったのなら。
ばい菌扱いされた時は……
『聖夜菌がついた、聖夜菌がつくと死ぬぞ』
『気持ち悪い! 聖夜菌がついた病気になって手が腐るーーえんがちょだ』
たしかに『死ぬぞ』と言っていた。
それに対して『腐る目』の元になったいじめは……
『なんだ!? その目、お前のその目なんなんだよ! お前キモイんだよ。あーあ、目が腐るわキモ!』
『あいつ本当にキモイ! あっ、目が合っちゃったよ、目が腐っちゃう』
良く考えたら『死ぬ』とは言ってなかった。
文字通り、目が腐るだけで、死にはしないスキルだったようだ。
「本当に土下座させた相手に今更良く媚を売れるわね」
塔子の場合はジョブは聖女。
治療職だから、目が見えなくても教会に入り一生回復師として生きていく。 そういう道もある。
だが、綾子は違う。
大魔導が使うのは攻撃魔法。
戦わないと意味がない。
恐らく、目が見えず、ここに来た時点で半分人生が詰んだかも知れない。
平和な前の世界なら兎も角、こんな世界で目の見えない女が放り出されたらまず生きていけない。
まぁ媚も売りたくなるよな。
「お願いよ……悪かったわ、塔子ちゃん! 聖夜くんも本当にごめんなさい……謝るから……お願いよ……グスッ、スン……ねぇ頼むから見捨てないでよ」
塔子は僅かに視力があるが、綾子は完全に盲目だから、怖くて仕方が無いだろう。
しかし此奴大河が死んだのに、随分と自分の事ばかりだな。
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