男の娘が創る魔法伝説
二木ラウダ
第1話 魔法の書
あやめは街の片隅に住む、15歳の男の娘だ。
彼は、今年中学を卒業し高校に入学予定で残りの学校生活を楽しんでいた。性格はおとなし目で、少しドジな面がある。しかし、彼は生まれつき魔法を扱うことができる唯一の男性であり、両親から魔法を使えることを隠すようにと言われ、そのことを隠して今まで生活をしていた。あの本に出会うまでは…
ある日、あやめは中学校の図書室で古い書物を発見した。その中には、女性しか使えないとされている魔法に関する記述があり、あやめは思考を巡らせた。男で魔法が使えることを隠すにしても、成長するにつれて魔力も共に大きくなってゆく、魔力を操る術を身に着けておいたほうが良いかもしれないと考え、その本に興味を惹かれたあやめは、魔法を試してみることに決める。
家に帰ると自分の部屋であやめは本に記載されている呪文を見たが、彼は文字を理解出来ても発音がイマイチわからなかった。女性であれば幼い時から呪文の唱え方や発音のやり方を学ぶが、あやめは男なのでそういう事を学んでいない。少し母親に教えてもらった程度だ。
「えーっと…ナニーニ…?クラァー…ク?えーっと…ヨッヘン…リントぉ?」
あやめは本をひっくり返したり、蝶のようにパタパタさせたりしてみるが反応がない。あやめは、顎に手を当てて首を傾げた。するとあやめは立ち上がり先程の呪文を詠唱した。
「ナニーニ!クラーク!ヨッヘンリント!」
彼が呪文を詠唱すると、透き通る蒼い瞳が輝き、部屋に静かな魔法の光が満ち始める。しかし、その瞬間母親が血相を変え部屋に入ってきた。
「あっ…あやめ!なっ…何をしているの!?」
「ん?学校で借りてきた魔法の本を読んでるんだよ?」
母親は慌てた表情をしており、あやめに関しては何の事?と言うようにキョトンとした顔で首を傾げている。なんでも母親が言うには先程唱えようとした呪文はかなり高度な魔法らしく、間違えば自分を消し飛ばしてしまう程の凄く危険な魔法らしい。あやめが無事なのを確認した母親はあやめを泣きながら抱きしめた。それ程危ない呪文だったという事だろう。
翌日の朝、あやめは母親と一緒に街中にある喫茶店へと足を運んでいた。なんでも、昨日魔法を使ったのがたまたま近くを通りかかった友人にバレたらしく、あやめと会って話がしたいと連絡を受けたらしい。喫茶店へ入ると、1人の女性がこちらを見ながら手を降っている。
「えりちゃん!あやめちゃん!こっちよ!」
その女性は、スーツ姿に水色の髪の毛、背中くらいまで長いウェーブが掛かった髪でスタイルも良く非常に整った顔つきだった。その女性の前に母親とあやめが座る。まず最初に母親が話を切り出した。
「で…一体何の用かしら?ルピナス魔法女学院の学院長さん?」
母親がそう言うと、あやめも可愛らしい口調で母親の真似をした。
「でぇ〜何の用ですかぁ?ルピナス学院の学園長さぁん?」
それを聞いた母親はあやめの頭を叩き、あやめは痛っ!と言うと両手で頭を抑えながら涙目でうずくまった。
「あやめは真似しないでよろしい、そして学園長ではなく学院長。」
そのやり取りを見た女性は腹を抱えて笑っていた。
「あははははっ!別に良いじゃない!可愛らしいし癒やされるわ〜で…本題なんだけど、えりちゃんあなた、あやめちゃんをウチの学院に入れる気は無い?」
突然の誘いに、母親は目を丸くして驚いた。
「あなた…この子の性別知ってるわよね?」
「えぇ…知っているわ…」
学院長と呼ばれる女性はそう答えると、昨日の晩に感じたあやめの魔法について話を始めた。
「えりちゃんが一番わかっている筈よ?あやめちゃんは本来受ける筈の魔法の制御を学んでいない…それは仕方ない事だけど…どちらにしても、この子の魔力は遅かれ早かれ暴走するわ。」
黙ってその話を聞く母親の横で、あやめは話を理解できず両足をパタパタと動かし遊んでいた。
3時間の長話の末に二人の話がまとまり、あやめはルピナス魔法女学院に性別を隠し入学する事となる。それは、彼の魔法を純粋に見たいという学院長の気持ちと、魔法を制御する術を学ばなければ、この先危ないという学院長なりの心配と興味心だった。
女性至上主義社会の中で唯一の男として魔法を使えるあやめにとって、大波乱の高校生活が幕を開けようとしていた。
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