ツートンな俺とモノクロな私のカラーレスなラブコメ
雨夜いくら
第一章 モノクローム
第一章前編 (天霧柊side)
第1話 旅立ちの前に、君と出会った
見慣れた街並みを歩くスピードは、どうしてかいつもよりも遅い気がした。
軽い鞄を持って、一人ぼんやりと足を進める。
そんな時ふと、学校近くの公園に立ち寄った。
「…高校行ったらここにも来なくなるかな」
これと言った思い入れなんて物は無い…寧ろ嫌な思い出が溢れてくる場所だから好きではないが、偶にふらっと来ては何となく遊んだ様な気はする。
「………勇気を翼に込めて♪希望の風に乗り♪」
何処からか聞こえて来た小さな歌声。
さっきまで中学校の体育館で、まさに自分たちが歌っていたので、きっとここまで聞こえていたんだろう。
俺は理由もなく、声のする方に足を進めた。
「…この広い大空に♪夢を託して♪」
公園の端っこでしゃがんでいる、誰かの後ろ姿を見つけた。
「旅立ちの日に…か」
歌声の正体は少女だろう、自分と同じくらいの年齢の後ろ姿だった。
辺りに人は居ない。それを確認して、何度か躊躇いながらも少女と同じ様にしゃがんだ。
少女はパーカーを着ておりフードを深く被っているので表情は分からない。スカートを履いていたり声が高く綺麗な歌声だったので、女の子なのは間違い無いだろう。
少女が見ていたのは、ダンボール。
中には捨てられたのであろう小さな子猫が二匹、どちらも元気な様には見えなかった。
(…それは、この子も同じに見えるな…)
どうも、寂しそうに見えたからこんな行動に出た。普段なら絶対にしないが、学校ではボッチだった自分と重ねて見てしまったのかも知れない。
「…君の?」
なんて声をかけようか迷いに迷ってから、そう聞くと少女は首を振って、小さな声で歌を続けた。
「…懐かしい友の声♪ふとよみがえる♪意味もないいさかいに♪泣いたあの時♪」
「俺も、そういう友達欲しかったな」
ポロッと漏らした本音。返事が来るとは思わなかった。
「……それは、私も思う」
初めて歌以外の声を聞かせてくれた少女は、ほんの少し皮肉めいた言葉を続けた。
「街を出る時に見送りが居ないのは楽だけど」
「…引っ越しとか?」
「高校、一人暮らしの予定だから」
少女の言葉に少し驚いた。何故なら、自分も同じだから。
少し勇気を出して、自分の事も話してみる。
「へえ奇遇だ、俺もそうなんだ。高校行ったらアパートで一人暮らし」
「…どこの高校?」
「志葉高」
答えると、少女はぴくっと肩を揺らした。
視線は子猫に落とされたまま、ゆっくり立ち上がった彼女に合わせて俺も膝を伸ばす。
しゃがんでいた時も小さいなとは思ったが、170センチも無い俺の肩くらいにおそらくは少女の目線があったので、150センチ程か、それに満たないくらいの身長だろうか。
「…私と同じ。もしかしたらアパート、同じかも」
「なんてところ?」
「
「あぁ、同じだね…。偏差値の低さが垣間見える」
思わずそう呟いてから、少し失礼だったかと思い訂正しようとすると、意外なことに少女は「ふふっ」と小さく笑った。
「志葉も良い方なのに、この辺りは頭良いところばっかりだから」
「ほんとそれ、しかも倍率高いしさ。兄貴と比べられんのも嫌になるよ」
「兄弟居るとそうなるよね、その気持ちわかる。私も双子のお姉ちゃんが頭良いから…」
意外な意気投合をして愚痴を言い合い、顔を見合わせて少し笑った。
見合わせて…とは言っても、深くフードを被っているので俺からは少女の口元しか見えていないが。
その口元も、白いマスクをしているのでほとんど分からない。
「…そうだ、名前…」
「あ、俺?」
「うん」
不意に少女がそう聞いてきた。
確かに、流れで話しはしていたもののなのってはいなかった。
「
問い返すと、少女はフードを脱いでマスクも外し、その顔の全貌を露わにした。
明らかに日本人離れした美しい銀髪に、宝石と見紛うかのような金色の瞳。
どちらにせよその美少女っぷりを際立たせる一因でしかないが。
美人な雰囲気と少年っぽい幼さが入り混じるその容姿とは裏腹に、落ち着いた印象の口調と表情、その雰囲気のギャップが可愛らしさと美しさを両立させているようだった。
おそらくは、その目立つ銀の髪をフードで隠せるようにショートヘアにしてるんだろう、なんて邪推をしながらも動揺は胸の奥にしまった。
「…
「セナ?…って、どんな字?」
名前を言われても頭に漢字が思い浮かばなかったので思わず聞き返すと、少女は小枝を拾って地面に文字を書いた。
「星の雫…で
「……これ
「…ありがと、綺麗なのは名前だけだけど」
かなり整った容姿してるけど…髪色とか眼の色とか隠してあるって事は絶対に気にしてるだろうから、口には出さないでおく。
そして一度話題を変える事にした。
「てか誕生日、四月なんだ。俺とほぼ一年近く離れてる」
「…今月の終わり…って、いつ頃?」
「文字通り3月の最後の日」
「31日…。その頃、どっちに居る?」
「アッチかな」
「……私も」
「ははっ、じゃあお互い…今年の誕生日は寂しくないかもね」
「そうかも」
今日初めて会って、少し意気投合した少女が見せたのは、ほんの少しだけ口角が上がっただけの微笑み。
それでも少女のあまりの美しさに、自分まで笑顔を返せる余裕は無かったから、少し顔を反らして頷くしか出来なかった。
明日もこの公園で会って、その時は連絡先も交換しようと約束して。
その後、俺達は子猫を近くの交番に届けてから帰路についた。
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