第033話
「あーっはっはっ、海奏ちゃん、それ最高」
「えー! 海奏、それ電車の中で訊いたの? それは初耳なんだけど」
陸はテーブルを叩きながら大笑いし、知奈美ちゃんは口を両手で押さえて驚愕している。
当の海奏ちゃんは、顔をトマトのように真赤にして下を向いてしまっている。
うん、可愛い。抱きしめたい。
「でも……その意味を教えてくれたの、知奈美なんですよ」
「ああ、知奈美ちゃんに訊いたんだね。でも……この間クラスの子達も知ってるって言ってたよね?」
海奏ちゃんの言葉を拾って、俺は疑問を呈す。
「ウチ、そんな面白い話は黙っていられないですよ。もうこの話、ウチらのクラス中の子が知ってます。もうインストで拡散しようかと思ったぐらい」
「お願いだからやめて!」
なんで人の素人童貞問題を世界中に拡散しようとするの?
「でもよかったじゃないですか。その事件のおかげで、海奏みたいな美少女と一緒にいられるんですよ? 役得じゃないですか?」
「うん、そこは同意だね。俺も毎日楽しいよ」
「まったくこんな美少女たちと……羨ましいぞ、暁斗」
俺たちがそんな話をしていると、注文した肉が運ばれてきた。
俺たちは先に取ってきていた野菜と一緒に、しゃぶしゃぶを食べ始めた。
いろんな話をしながら、俺たちはしゃぶしゃぶを楽しんだ。
驚いたのが、知奈美ちゃんの食欲だ。
体は小さいのに、肉も野菜もどんどん食べ進んでいく。
タッチパネルで肉の追加をしているが、あっという間になくなってしまう。
俺も陸も食べているが、知奈美ちゃんの食べっぷりがいい。
一方で海奏ちゃんは、やはり少食のようだ。
知奈美ちゃんは「海奏、もっと食べないと!」と海奏ちゃんをけしかけている。
知奈美ちゃんは野菜やカレー、麺類も取ってきてパクパクと食べている。
逆に見ていて気持ちがよかった。
1時間ほど経っただろうか。
さすがに全員満腹になった。
俺と陸は食後のコーヒーを、海奏ちゃんはソフトクリームを、知奈美ちゃんはワッフルにソフトクリームを乗せて食べていた。
「海奏、そう言えばさ。暁斗さんに学園祭来てもらったら?」
「え? う、うん。それ、訊こうと思ってた」
海奏ちゃんはソフトクリームを飲み込むと、俺にこう言った。
「暁斗さん。再来週の日曜日、うちの学校の学園祭があるんですけど……よかったら来られませんか?」
「え? 女子校の学園祭って……俺みたいなサラリーマンが行っていいものなの?」
女子校の学園祭っていうと……他校の友達とか彼氏とかを呼んで、わいわいと盛り上がるイメージなんだけど。
俺みたいな……彼女たちからするとオッサンが、行っていいものじゃないのでは?
「はい、全然問題ないですよ。うちの学校、生徒の両親とかも来るので。もちろん他校の生徒とかも来ますけど」
「ねえ、オレは? オレも行っていい?」
陸がこんな美味しい話を見逃すわけがなかった。
「はい、じゃあ陸さんにはウチの招待券を差し上げますから。お二人で来られてはどうですか?」
「やったー! 行く行く! 聖レオナの学祭とか、絶対行く!」
陸のテンションが高すぎる。
「陸、お前……女子大ならまだしも、女子校だぞ?」
「それでもだよ! あー今から楽しみだ!」
「暁斗さんも、どうですか?」
海奏ちゃんが笑顔でそう訊いてきた。
「うん……それじゃあお邪魔しようかな。海奏ちゃん、案内してくれる?」
「はい、もちろんです。一緒に回りましょう」
「暁斗さんは、クラス全員でお待ちしてますね」
知奈美ちゃんがツインテールを揺らして、いたずらっぽく笑った。
「……やっぱり行きたくなくなってきた……」
「だ、大丈夫ですよ、暁斗さん! 知奈美、変なこと言わないで」
海奏ちゃんがあわあわして、知奈美ちゃんを牽制していた。
俺はいろいろと心配事もあるが……女子校の学園祭とか、いままでもちろん行ったことがない。
ここは社会勉強ということで、腹をくくることにする。
「ごちそうさまでしたー! 美味しかった!」
「陸さん、すいません。ごちそうになります」
「いいのいいの! こんなに可愛い高校生にご馳走できたんだから、こっちがお礼を言わないといけないよ」
会計を終えた陸に、海奏ちゃんも知奈美ちゃんもお礼の言葉を口にしていた。
もちろん俺は自分の分は、陸に現金を渡しておいた。
「それじゃあ……学園祭の件は、暁斗さんから陸さんに連絡してもらっていいですか? 暁斗さんは、海奏としょっちゅう会ってるわけだし」
知奈美ちゃんは俺たちにそう話してきた。
「え? う、うん……そうしようか。じゃあ暁斗、必ず連絡してくれよ」
「ああ、わかった。連絡する」
陸の様子がちょっと微妙だったのは……おそらく彼女たちの連絡先を訊きたかったんだと思う。
ところが知奈美ちゃんが「俺経由で連絡する」と言ってきたので、陸は二の句が継げなかった。
多分……知奈美ちゃんが先回りして牽制したんじゃないかな?
連絡先は教えたくないという意味で。
うーん知奈美ちゃん、なかなかやるな。
俺たち4人は、駅まで揃って歩いた。
俺と海奏ちゃんはもちろん同じ方向、陸は逆方向、知奈美ちゃんはバスに乗るらしい。
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