第009話

「どうして世の中の男の人って、皆巨乳好きなんですかね? 私、問題があると思うんですよ。今のこの巨乳至上主義っていうか、バスト第一主義っていうか、ちち本位制っていうか」


 なんだか初めて聞く単語がたくさん出てきた。


「私だってこう見えて……」


「……こう見えて?」


「なっ……内緒です!」


 海奏ちゃんは両手で自分の胸元を押さえ、顔を赤く染めて俺の顔を見上げた。


 やばい、めっちゃ可愛い……写真撮りてぇ。


「そう言えば暁斗さん。昨日のレジの時、私の胸見てましたよね?」


「うッ……そ、それは……」


 海奏ちゃんが攻撃してきた。


 確かに見てたけど、それはだな……


「ごめん。確かにチラッと見てたけど……それは名札がないかと思って見たんだよ」


 俺は正直に言うことにした。


「名札?」


「ああ。その……名前が知りたくてさ」


「え? あ、そういう……」


 どうやら納得してもらえたようだ。


「そうですよね。巨乳好きの暁斗さんは、女子高生の胸とか興味ないですよね」


「いや、それはそれでメッチャ興味あるけど」


「どっちなんですか!」


 また自分の胸元を押さえて、怒り出す海奏ちゃんだった。


 この子、からかうと面白いな……。




 そんなやり取りをしているうちに、山下町の交差点に着いてしまった。


 今日はここまでか……でもまた次回があるよな。


 ないのか?


「あっという間に着いちゃったね」


「本当ですね。早かったです」


 彼女はそう言いながら、少しまた何かを考えているようだった。


「それじゃあまた。気をつけてね。また買い物に行くから」


 俺はそう言って、彼女を見送ることにする。


 本当は彼女の家の前まで送って行きたいが、さすがに彼女だって俺に自宅までは知られたくないだろう。


「えっと……暁斗さん。実はもう一つ、追加のサービス特典があるんですけど」


「えっ……な、何かな?」


 これ以上のサービス特典?


 いったい……何だ?


 現役女子高生と……いやいや、さすがにそこまでは……


「えっと……現役女子高生を」


「……うん」


「自宅の前まで送っていけるっていう追加サービスなんですけど……どうですか?」


 彼女が恥ずかしそうにもじもじしながら、上目遣いに訊いてきた。


 俺は……もうその時点で、ほとんどノックアウトだった。


 ちょっと期待していたものとは違ったけど。


 いやでも……何でだ?


 それに俺の会社名を聞いてから、少し態度がおかしい。


「そ、それは魅力的な特典なんだけど……でも大丈夫? そこまで俺のこと信用して」


「はい。でも……暁斗さん、絶対変なことしないって約束してくれますか?」


「えっ? うん、それはもちろん」


「もし暁斗さんが変なことしたら……暁斗さん、仕事も社会的信用も全て失いますから。それだけは覚えておいて下さいね」


 彼女は微笑みながらそう言った。


 でもちょっと怖いんだけど。


「? う、うん。分かったけど……」


 俺のことを知っている人が、身近にいるってことだな。


 やっぱり岩瀬課長か?


「やっぱりうちの会社に、知ってる人でもいるの?」


「……内緒です」


「えー、気になるなぁ」


「……えーっと、いい女には秘密が多いってことで、許してもらえませんか?」


 自分でもそう言ったことが恥ずかしかったみたいで、海奏ちゃんは頬を紅潮させて目を泳がせる。


 可愛過ぎる!


 許す、何でも許す!


 ついでに抱きしめたい!


「うん、わかった。じゃあ……海奏ちゃんの家まで歩こうか」


「はいっ。ありがとうございます」


「こちらこそ、ありがとうだよ」


 元気に返事をした海奏ちゃんと一緒に、俺たちは山下町の交差点の横断歩道を渡った。



 俺はもうしばらく歩きながら、海奏ちゃんの学校の話をした。


「えっと……海奏ちゃん、どこの学校か訊いていい?」


「はい、聖レオナ女学院って、ご存知ですか?」


「え? 聖レオナなの? 頭いいんだね」


「そうでもないですよ」


 もっとも俺が知っているのは、聖レオナ女子大の方だ。


 カトリック系で語学に強みのある女子大で偏差値がかなり高い。


 俺が大学時代に友達が何度か聖レオナ女子大と合コンを試みたが、全く相手にしてもらえなかったらしい。


 まあ俺の大学だったら、そうだろうな……。


「今何年生?」


「3年です」


「え? 受験は大丈夫?」


「まあ付属から上がるだけなので……だからこうやってバイトできてるんです。定期試験は頑張らないといけないんですけどね」


「そうなんだ。それじゃあ来年は聖レオナの女子大生だ」


「そうなると思います」


 この美少女が来年聖レオナの女子大生……もうメッチャモテるだろうな。


 これは絶対にお友達になっておかないと。


「海奏ちゃん、モテるでしょ?」


「えっ? そんなことは……そもそも女子校ですからね。出会いもないですし」


「あ、そうか。でもさ、他校の男の子からアプローチされない?」


「んー……無くはないですけど。それより私……もともと男の人が苦手なんです。こうやって送ってもらって言うのもアレなんですけど」


「え? そうなの? あーでも、そうか。それだけ痴漢とかにあってるしね」


「ええ。それにこの間はストーカーにもあいましたし」


 なるほど……そりゃあ、男にそんなことされたら苦手になるよな。


 でもこうして俺は信用されている。


 よしっ、これはアドバンテージだ。

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