第9話 キッチンは兵器。
翌朝、起きた明霞は色々と地獄の様相と少しの天国が待っていた。
「何やってんの!?」の声が遠くから聞こえてきて、うとうとしながら目を覚まし、寝たのが遅いからか瞼が重くて開かず、身体が痛くて重い事を不思議に思っていると、ドタドタと聞こえてきて「バン」という音と共に、「居た!」と聞こえてくる。
その直後に「大丈夫!?明霞くん!」と言う声と「お前…よくも俺の妹と」と言う声が聞こえてきた。
明霞は起きなければならない気がして起きると、そこは昨晩避難した恋の部屋で、横には昨日遭難スタイルで掛け布団の中にいた恋だった。
恋は熟睡していて、気持ちよさそうに明霞の胸に寄りかかりながら、「すぴー…、すー…」と寝息を立てている。
「え!?朝!?あのまま寝てた!?」と明霞が慌てても恋は起きる気配がない。
夢は呆れながら「寝たら中々起きないのよね」と言うが、望は「お前、よくも俺の妹と」と言って怖い顔で明霞を見ている。
明霞が慌てて飛び起きて、「恋!起きろ!起きてくれ!何もなかった事を説明してくれ!」と言うと、ようやく目を覚ました恋が「あれ?明霞?おはよう朝?あ、お姉ちゃんだ、ご飯?お兄ちゃん?どうしたの?」なんて寝ぼけている。
あわあわする明霞とは裏腹にマイペースな恋。呆れ顔で見てる夢に怒り顔に見える望。
「なんだうるさいぞ?」、「どうしたの?」と恋の部屋にやってきて、「明霞くん…」、「まあ」と言う勝利と愛。
明霞は涙目で「違う」、「これは」と言った時に、望が我慢できなくなって笑い出すと、明霞は「へ?」、「は?」と聞き返した。
「ドッキリ成功だ。あー、面白かった」と言った望が「パンは何枚だ?」と明霞に聞き、明霞が「2…2枚」と答えると、「恋、起きろ。起きないと全部食べるからな?」と声をかけて恋を起こす。
そのままリビングに顔を出すと、夢は笑いながら朝食の支度をして何があったかを教えてくれた。
酒盛りは夜明けまで続いていた。
盛り上がった3人は、ようやく明霞の事を思い出して探すと、恋の部屋で遭難者のように寝てしまっていて、申し訳ない気持ちになりながらも楽しい気持ちになってしまい、3人で暖かく見守る事にして、リビングで年甲斐もなく3人仲良く明霞の布団で眠っていた。
何も知らない夢は、普段なら母が起きている時間なのにリビングが静かな事が気になって、トイレのついでにリビングに顔を出すと、酒臭いリビングであの兄と両親が仲良く眠っていたので、「何やってんの!?」と声を荒げて起こしてしまう。
起きた3人に、夢が「明霞くんに用意した布団でなんで寝てるの!?明霞くんは何処?」と聞いた時に、望はすぐに明霞の事を思い出して、夢に事の経緯を説明してドッキリをしかけるぞと言い出す。
悪戯っ子の顔をした望を久しぶりに見て嬉しい気持ちの夢は、言われるままに恋の部屋を目指して、「居た!」と言う役割を果たしていた。
「…俺は寝床を奪われて、あらぬ疑いをかけられる羽目になったんですね」とジト目でお茶をすすりながら山形家の面々を見ると、昨日までの顔が嘘のような勝利と愛、したり顔の望。
望は「明霞には痛い所を散々突かれたからな。これくらいしないとな」と笑い、恋は「腰とか首が痛いねぇ」と別の意味で笑っている。
夢だけは申し訳なさそうに乾いた笑いをしながら、「朝ごはん作るから待っててね」と言ってくれた。
夢の作る朝食は、冷凍しておいたしじみを使った味噌汁とハムエッグとサラダ。だが山形家はハムエッグならパンだと言ってパンを焼く。
「お姉ちゃんのハムエッグ美味しいよ」と話す恋に、「恋は手伝わないのか?」と明霞が聞くと、望が「明霞!恐ろしい事を言うな!」と肩を掴んでくる。
「え?望さん?」
「恋に台所は兵器だ。包丁は武器だ。ガスコンロは爆弾だ!」
望の剣幕に恋は怒る事もなく、「サラダの野菜なら引きちぎれるよ」と笑顔で説明をするし、勝利と愛も「リフォームはまだしたくないや」、「今度ゆで卵にリベンジしましょうね」なんて言っている。
朝食の話題は主に恋の料理事情になる。
なんでも夢と恋にはキチンと料理を教えたが、恋はなぜかやるなと言うことからやり始める。
それには本人が「いやー、ダメだって言われると、なんでか気になるんだよね。明霞もわかるよね?」なんて相槌を打ってくる。
「なんとなくわからないわけはないが、ガスコンロを点火失敗したら爆発したり、包丁は手を切るくらいはわかるだろ?」
「ほら、私なら平気かもとか確かめたくなるんだよね」
ここでなんとなく明霞は思い出す。
「あー…、それで昔の望さんや夢さんは、恋を鬱陶しくしてたんだ…」
「わかるか明霞!」
「そうなのよ!」
望と夢の熱量に明霞は呆れ顔になり、恋は「なになに?なにが?お兄ちゃん?お姉ちゃん?」と聞く。
夢が「危ないからダメだって止めるのに、確かめようとして怪我をしたりするの」と言うと、望が「それで怒られるのは長男の俺だ。近づかせたくなくなる」と続くが、夢も「何言ってるの?お兄ちゃんは男だからまだマシよ!私なんて女だからって怒られるんだから」と言い返す。
恋だけはわからずにいると、明霞が「昔、俺に話したろ?家の側の犬の話」と聞くと、恋は「ああ!モモちゃん?可愛い子で撫でたいのに、お兄ちゃんがダメって言うんだよね。結局私が撫でる前に死んじゃってさ」と感慨深く犬の話をする。
「だから、その犬って噛み癖があるんじゃないのか?」
「え?」
「わかってくれるか明霞!それなのに恋は触りたがるし、父さんと母さんは俺がいくら恋を止めてくれと言っても、「望はお兄ちゃんなんだから」、「それは望が止めるんだ」って言うだけだ!」
山形夫妻にまで飛び火して、山形夫妻は居心地が悪いのだが、明霞はそのまま「昔、スカートが可愛いのに夢さんがダメって言うとか言ってたの覚えてるか?」と恋に聞くと、「そうそう!ズルいんだよ!お姉ちゃんはヒラヒラしてて可愛いのに、私は短パンばっかりなの!」と返ってくる。
明霞は呆れ顔で「どうせパンツを見せちゃダメって言われて、「なんでー?」とか言いながら外でスカートまくったろ?」と聞くと、恋は思い当たる節があるのか「あ…」と言い、夢が「そうなの!わかってくれる?変な人に連れ攫われるって教えたのに、「本当?」って言って街中でやるのよ!お父さんは女同士でよろしくとか言うし!お母さんはお姉ちゃんでしょ!って言うだけなの!」と熱を込めて喋る。
恋と山形夫妻の居心地がどんどん悪くなる中、望が「それなのに明霞は恋とよくいてくれたよな」と言うと、「そう言えば、明霞くんから恋の不満とか聞かなかったかも」と夢も続く。
「まあ簡単ですよ。お兄さんとお姉さんがいて、妹がいて、ここに弟がいたら同性で仲良くしてましたけど、弟はいないから年下は珍しくて嫌じゃなかったですよ」
明霞は懐かしむように恋を見て、微笑むような穏やかな顔で話すと、恋は「明霞ぁ〜」と喜んでニコニコとする。
話はそこで終わらずに、「でもなんで恋は明霞くんの前では危ない真似をしなかったの?」と夢が聞くと、恋は「えぇ?明霞はダメって言わないもん」と返し、それを見て明霞はひとつ思い出していた。
「ああ、あったな。望さんと夢さんが高いところから飛び降りるのにハマっていた時に恋がやりたがったこと」
「そうそう。お兄ちゃん達はダメって言うんだよ」
望と夢には覚えがある。小学生になった望と夢が、高い場所からのジャンプを覚えてきて、まだ四つの恋はダメだと言った。それでも2人の目を盗んで飛ぼうとする恋を横にいた明霞が止めた。
「飛ぼうよって明霞を誘ったんだよねぇ」
「明霞くん?ダメって言わなかったの?」
夢の言葉に恋が「明霞覚えてる?」と聞く。
明霞は「多分」と答えてから、「怪我されたらもう会えなくなるかも知れないから、飛ばないで…だったかな?」と言うと、恋が「そうそう!明霞はちゃんと困る理由とか、嫌な理由を話してくれるよね!」と言ってニコニコ笑顔になる。
それも山形家ではあまりない会話だった。
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