神の左腕

わたくし

十年前

「キャリアーズ選手の交代をお知らせします」

「ピッチャーの葛城に代わりまして、ピッチャー……」


 ウグイス嬢が一拍の間を置く。

 騒がしかった球場全体が、ウグイス嬢の次の言葉を待つために静寂になる。


「伊吹、背番号19!」


 球場に響く大歓声。

 キャリアーズ応援団席は勝利確定の歓喜の大声援、相手側応援団席では諦めの溜息がこだまする。

 両側の歓声の真ん中に『19』の数字を背負った男が立っていた。


 磯浜キャリアーズ 背番号19番 伊吹 ただし 23才 抑え投手

 キャリアーズの守護神だ。



「5年前、高卒のドラフト7位でキャリアーズに外野手として入団」

「入団3年目から投手に転向してから瞬く間に守護神に上り詰めました」

「キャリアーズのリーグ3連覇、そして2年連続の日本一に最も貢献した選手でしょう」

「キャリアーズファンからは『神の左腕』と呼ばれています」

「さぁ、伊吹が登板した事でキャリアーズの日本シリーズ3連覇は確実でしょう!」


 実況アナウンサーが捲し立てる。


「空振り三振!」

「試合終了! キャリアーズ3年連続日本一です!」

「ピッチャー伊吹とキャッチャー赤城がマウンド上で抱き合っています!」

「他のチームメイト達も集まってきました!」

「あっ! 大鳳おおとり監督がゆっくりとベンチから出てきました!」

「これから歓喜の胴上げが始まります!」


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