メモ紙
兎ワンコ
本文
『−20』
僕の頭上からヒラヒラと降ってきた手の平サイズのメモ用紙には、小さな文字ではっきりとそのように書いてあった。
見上げれば、窓が全て閉まった四階建ての校舎が見えるだけで、メモ紙の持ち主らしい人物も見当たらない。
きっと、誰かのメモが風に飛ばされてきたのだろう、と安直に考えてメモ紙をポケットに滑り込ませて教室へと向かった。
その日の帰り道、予報にもない小雨が降ってきた。
家に着いた頃、ポケットに手を突っ込んだらメモ紙は無くなっていた。
翌日。僕が登校するとまたメモ紙がヒラヒラと頭上から舞い降りてきた。
またか、と思いながら足元に落ちたメモ紙を拾い上げる。
『+300』
昨日と同じような数字が書かれていた。見上げても、持ち主らしい人物は見当たらない。
なんなだろう、と不思議に思いながらも、メモ紙をポケットに突っ込んだ。
その日の帰り道は風が強く、埃が目に入らないように手を置いていた帰った。すると、手の中に何かが滑り込んできた。見れば、千円札であった。
僕はラッキーと思い、お札をポケットに突っ込んだ。その時、メモ紙がなくなっているのに気付いた。
次の日も、メモ紙は降ってきた。
『−600』
その日は午前中から土砂降りが見舞われ、帰り道も止むことはなかった。
僕はこのメモ紙の法則をなんとなく、理解し始めた。
翌日のメモ紙は『+5000』。
ジメジメした暑さに見舞われ、僕はゾンビのようにヨタヨタと帰っていると声を掛けられた。声を掛けてきたのはクラスメイト達で、中には気になっていた女の子もいた。僕は彼らと共にコンビニでアイスを買い、それからあちこちに寄り道した。忘れられない思い出の青春の一ページになった。
家に帰れば、やはりメモ紙はなくなっていた。
これでようやく理解できた。
メモ紙は未来を教えてくれる。気象予報に関連したことが起き、僕に良い事と悪い事をもたらしてくれるのだ。
メモ紙に書かれたものは、その日に起きることが数値で記されているようだ。いわば、未来予測数値。
数字の数値がどれほどの影響を与えるのかはわからない。だが、マイナスの場合は、ほとんど気象に関係している。
僕はメモ紙が楽しみになった。
明くる日、ウキウキした気持ちで登校する。校門を通り過ぎると、案の定、メモ紙が舞い降りた。
そのメモを見て言葉を失った。なぜなら、今までと違って余白がなかった。いや、余白を空けるスペースがなかったと言っていいだろう。
『−999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999』
途端に周囲が影を落とされたように、真っ暗になった。見上げれば、それは太陽を隠していた。地面に到達するのは、おそらく午後の夕方だろう。
明日は、メモ紙がもう降ってくることはないだろうと、僕は落胆した。
メモ紙 兎ワンコ @usag_oneko
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