神秘の人魚族・番外編

紫川ころる

第1話 父と息子の和解

父アクアマリンの過去を聞いたアジュールは、アイトラーに話を持ち掛ける。   


「お兄ちゃん…ちょっといい?」

「アジュール?」

「…パパの事なんだけど」


「パパ」と聞いて、無意識に顔が少しムッとしてしまうアイトラー。

しかしアジュールは気にせずに続ける。


「もう、パパと喧嘩するのやめようよ…」


アジュールがそう言うと、アイトラーはうつむく。


「…わかってる。いつまでもお前や母さんにみっともなく喧嘩してる姿を見せるわけにもいかないからな」


と言うものの、拳を握りしめる。


「でも!人間の事に関して父さんはわからずやすぎるんだよ!俺は今まで地上と人間の良い所を見てきたんだ。悪い奴もたくさんいるだろうけど、良い人間まで全否定する言い方が許せなくて…!俺もついカッとなっちまう…」


本当は父と喧嘩などしたくないのが本音のアイトラー。

それでも譲れない事に関しては、怒りを抑えられないのだ。


「そっか…。でもね、パパもただわからずやってわけじゃないの」

「え…?」

「前に、思い切って聞いてみたんだ。パパはどうして人間が大嫌いなのかって」

「…何て答えたんだ?」


あの悲惨な話を思い出すと、アジュールは自分の事のように辛くなる。それでもそのすべてをアイトラーに教えた。

人魚を捕まえようとした悪い人間達。

人助けしようとした良心を利用した罠にはまった父。

その人間達は人魚の涙から出来る水晶で儲けようと父を捕え、痛めつけて泣かせようとした事。

誘拐されそうになった所を、仲間達が駆けつけてくれた事。

父は助かったものの完全な人間不信となり、海の底に引き籠るようになった事。


「…こんな所かな。ママに出会って結婚してからはいくらか元気を取り戻したけど、人間不信までは治らなかったって」


妹が語った父の過去を、アイトラーは呆然として聞いていた。


「……父さん、そんなひどい目にあってたのか…」

「私も、初めて聞いた時びっくりしたな…」


次第にアイトラーは目を潤ませる。


「そりゃあ人間が嫌いになって当然だよな…。なのに俺、何も知らなかったのをいい事に父さんに言いたい放題してた…最低だよな」


自責の念に駆られるアイトラーに、アジュールは優しく手を握って言う。


「お兄ちゃんも悪くないよ。パパを誘拐しようとした人間達は悪い奴だったけど…だからって良い人間が否定されていいわけじゃない。お兄ちゃんの、良い人間を信じる気持ちも大事だもん」

「アジュール…」

「でもこれで、お兄ちゃんもパパの気持ちがわかったでしょ!次は仲直りしよ」

「えっ…それはいきなり、心の準備が…」

「大丈夫!心の準備なんていらないの!」

「お、お~い…」


アジュールに引っ張られ、アイトラーは情けない声を出す。




アクアマリンの元にアイトラーを連れてきたアジュール。


「パパ、お兄ちゃんにあの話をしてきたよ」

「…そうか」

「ほらお兄ちゃん、パパに謝らなきゃ」

「あ…ああ」


アイトラーは少しぎこちない動きだが、深く頭を下げた。


「…ごめん!父さんの人間嫌いの理由、俺でもすごく納得した。悪い人間から、俺達を守りたかったんだよな…?何も知らなかったとはいえ、ずっと生意気に反発ばっかりして悪かった!」


息子の精一杯の謝罪を受けたアクアマリンは…


「アイトラー…顔を上げろ。私こそ、お前の人間を信じる気持ちを信じられず、感情的になっていた。すまなかった」

「父さん…」

「…私も、偏見に囚われたままではいけないな。アイトラーの言う良い人間に、いつか会ってみたい」


初めて謝る事が出来た父と息子。

その一部始終を見ていたアジュールはニコッと笑い、二人の手を繋がせる。


「やっと仲直り出来たね、パパとお兄ちゃん!」


アジュールにつられて、二人も照れ笑いを浮かべた。


それからのアクアマリンは、さすがに人間の姿に変身して地上に行く事は出来なかったが、ちょくちょく水面から顔を出し、地上の街や自然を眺めたりするようになった。

この調子なら、いずれ良い人間との出会いがあるかもしれない…。

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