第15話 結社

 秋葉原で聞いた話である。

 様々な店舗のキャストさんから聞いた話で、「内密に」とのことなので詳細は省く。ただし、駅前や秋葉原に何店舗もあるようなグループ店から、雑居ビルの片隅にある独立系店舗まで、複数のキャストさんから聞いた話である。


「キャスト同士の秘密結社がある」


 とりあえず、二回、聞きなおした。

 協会といえば、秋葉原には「〇〇田メイド協会」や「〇〇原コンセプトショップ協会」がある。これらは、コンセプトカフェの安心・安全な運営や地域活性化のために作られたもので、どちらかといえばキャストよりも店のオーナーが入会するものである。

 しかし、今回の話は「協会」ではなく「結社」であり、しかも頭に「秘密」とついている。

「秘密結社」として有名なのは「フリーメイソン」や「イルミナティ」である。


 「フリーメイソン」は、最も有名な秘密結社のひとつで、中世の石工ギルドに起源を持ち、啓蒙思想や近代市民社会の形成にも関わったとされる。シンボルは「コンパスと直角定規」で、東京タワー付近に日本支部がある。

 「イルミナティ」は1776年にバイエルンで創設された啓蒙主義的秘密結社である。短期間で解散したが、以後「世界を裏から操る組織」として都市伝説や陰謀論でよく取り上げられる。

 最近では「Deep State(ディープステート)」という言葉もネットで見かける。「DS」と略され、「表に出ない国家権力」「政府の裏で動く支配層」といった意味で使われている。


 日本で秘密というわけではないが、似た例として「庚申講」や「えびす講」がある。「講」とは民俗宗教における宗教行事を行う集団や相互扶助的な会合を意味する。


 このキャスト同士の「秘密結社」の名前は教えてもらえなかったが、会員は約200~1000名程度である。コロナ禍の最中にできたらしい。会員同士の連絡は「Tor」ブラウザを通したSNSや掲示板で行われているという。また、会員と見分けるための特別な挨拶もあるとのこと。


 例えば、キャストも会員、お客も会員の場合、「おかえりなさいませ。ご主人様」と言われた時に、右手の親指と人差し指で喉を触る。その後も、決まった会話や仕草を段階的に交わすことで、会員であることが分かるという。


 入会資格は「コンセプトカフェのキャスト」であれば誰でも可能だが、サイトへのアクセスが必要なため、紹介者が必須である。また、卒業しても会費さえ払えば会員を続けられる。会員を紹介してネットワークを広げると位が上がるが、特に特典はなく、称号がつくだけである。会費は年に1回、「お給仕1回分」程度の金額である。

 荒唐無稽な話で、にわかには信じられない。少しネットワークビジネスの雰囲気もある。


 仮にこの「秘密結社」があったとしても、その目的は不明である。話を聞いたキャストさんも、「萌えで世界を平和にする」「世界中のご主人様を癒す」「ご帰宅の専門家を育成する」など、いろいろなことを言っていたが、本人たちも首をかしげていた。


 恐らく、コロナ禍にできたということから、「相互扶助」を目的としていると考えられる。コロナ禍は、店舗の休業や時短営業など、飲食店にとって非常に厳しい時期だった。お客さんが少ない中、キャスト同士がお互いを客として助け合ったのだろう。


 また、コロナ禍が過ぎれば「秘密結社」は必要なくなるが、まだ存続している。結社作りが上手く、「秘密の挨拶」や「特別なSNS」を用いることで、会員に「秘匿感」や「優越感」を持たせている。


 最近は、掲示板に「〇〇の商品が良い」といった何気ない書き込みもあるそうだ。今の時代、SNSでの炎上は簡単だが、実際に人を、決まった時間に決まった場所へ動員するは難しい。

 秋葉原のコンセプトカフェは約200店舗あり、1店舗あたりのキャストは5名程度とする。1店舗で会員が一人と想定しても、秘密結社の会員は約200名となる。コンセプトカフェを卒業した人も含めれば、300~500名となるだろう。


 500名規模であれば、イベントや企画、政治的集会などのサクラとして動員するのに十分である。そのうち、テレビやネットでキャストを見かける日が来るかもしれない。


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