第4話 チェキ

 秋葉原で聞いた話である。

 話してくれたのは、あるコンカフェの常連客のカルアさんである。見た目は、かなり額が後退し毛量も少なくなっている男性である。カルアさんの由来は、「カルアミルク」をよく読むためであり、お店では自分から「カルアさん」と名乗っていた。

 このカルアさん、専門学校の講師をしているが、昼からアルコールを摂取したくなり、「カルアミルクなら甘いからばれないのでは」と昼食時から飲んでいたそうだ。

 その後、飲んでるところを生徒に見つかり密告されそうになったので、その生徒にもカルアミルクを飲ませ、一緒に午後の授業をしたとのことである。ある意味豪快な人である。

 

 聞かせてくれたのは、チェキにまつわる話である。

 チェキとは、インスタントカメラを用いて撮影し、現像もその場で1分ぐらいできる簡単な写真である。ほとんどのコンカフェ店内では、ほぼ撮影禁止でありキャストを撮りたい場合、またはキャストと一緒に写真を撮りたい場合は、チェキを頼むこととなる。

 価格は、五百円から高ければ千五百円ぐらいであり、キャストにはその一割から五割程度のバックが入る。そのため、チェキを撮ることを熱心に進めてくるキャストも多い。

 撮ったチェキには、ほとんどのコンカフェで落書きをしてくれる。

 落書きの内容は、メッセージやイラストなどである。例えば「お仕事かんばって~」とか「また、愛に来てね!」とかである。これを、2~3色の配色で、マッキーかポスカ、コピックを使い、書きこんでいくのである。ちなみにこの落書き、書き方によっては、客をガチ恋にさせることとなるので、注意が必要である。

 

 カルアさんは、お気に入りのキャストがいると、必ずチェキを撮っている。キャスト一人につき2~3枚ぐらい撮り、内容はキャストさん単体であったり、自分も一緒に写ったりしている。

 チェキアルバムが何冊もあり、神経衰弱ができるほどの枚数があるとのことだった。私は、とあるファーストフードの2階席で、チェキを並べて満足気に眺めてるカルアさんを何度か見たことがある。


 カルアさん曰く、チェキをよく見ると、飛んでしまうキャストが分かるとのことだった。

 この「飛ぶ」とは、いわゆる「バックレる」と同じ意味で、連絡もなく辞めてしまうことである。そのキャストを推していた客にとっては、やりきれないこととなるが、店側にとってはさらに困った状況となる。シフトの編成の見直しや給料の問題、衣装やロッカーの鍵の返却等である。


 チェキをいつも撮っているので「撮った順に並べれば、ヤバそうな雰囲気がわかるとかですか。」と聞いた見たところ、違うとの返答があった。

「そうじゃないね。女の子の背景をみるんだよ。ヤバそうなキャストは、変な文字が浮かんで見える。」

 カルアさんによると「ウラ」とか「アト」とか「ヤマ」とかの文字が、キャストのそばに浮かんでくるらしい。

 ちょっと怪しげに思っていると、チェキアルバムから2枚のチェキを撮りだして見せてくれた。カルアさんとキャストさんが仲良く写っているものであり、1枚目はキャストさんが新人の頃、2枚目は最近のものである。

 1枚目のチェキには、おかしなこともなく二人笑って楽しそうなチェキである。2枚目も1枚目と同様に、楽しそうなチェキである。

 不審なところがないなと思い見ていると、カルアさんが「女の子の後ろの壁、見てみな。」と指さしてくれた。

 言われてみないと全然気が付かないが、壁に爪でひっかいて書いたような字体で「オニ」と見える。ちなみに、後から付け足したようにも見えないし、落書きは白のマッキーで描かれており跡があるので、別のチェキで合成して作ったようにも見えない。

 さらには、カルアさんの後ろにも同じ「オニ」の文字が見えた。

 驚いてカルアさんに言うと「こういうのって移るんだよね。」とあっさり言い、「しばらくはその店には行かないよ。」とも言った。


 この話を聞いた一月後にカルアさんに、別のコンカフェであった。思わず「大丈夫だったんですか。」と聞いたところ、あのチェキを見せてくれた。

 「オニ」の文字は、カルアさんの背後からは無くなり、キャストの背後の文字が前よりもくっきり見えた。

 「たぶん、そのキャスト、もう店にはこないね。」とカルアさんは寂しそうに言った。

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コンカフェで聞いた話 ニシムラケイ @potato01

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