#05 雨の夜道で二人は何を思う



 六栗って、凄く良い匂いがする。

 陽キャ女子だもんな。

 特にオシャレに気を遣ってるみたいだし、匂いも他の女子とは違うのかな。



 今俺は、塾の帰り道、六栗と密着して歩いている。

 普段ならお互い距離取って歩くのに、なぜこの日は密着してるのか。

 理由は単純明快。

 来るときに降ってなかった雨が降りだしたのに、六栗が傘を持ってくるの忘れてて、俺の傘に二人で入って帰っているからだ。


 最初は恰好付けて「俺は濡れても平気だから、六栗が使ってくれ」と俺の傘を渡そうとしたが、「ダメだよ!ケンくんが濡れて風邪でも引いたら私がママに怒られる!私こそ自分が悪いんだから濡れて帰るし!」と六栗が声を張り上げ、お互いの主張がぶつかった。

 だが結局は、お互いが譲歩して妥協案の相合傘で帰ることになった。


 しかし、妥協案だったはずの相合傘はいざ実際に始めてみると、超最高だった。

 なにせ、六栗と肩を寄せあいピッタリ密着して歩いている訳だからな。

 六栗の甘い匂いに包まれ、ドキドキがMAXだ。

 こんなの思春期の中3男子には刺激が強すぎる。

 やはり、女子って凄いな。

 一緒に居るだけで、こんなにもドキドキさせるんだもんな。


 でも、六栗はどうなんだろう。

 俺と同じようにドキドキしてるのだろうか。



 いや、そんな訳ないよな。

 自分を振った男なんかと誰が好き好んで相合傘なんぞしたがるものか。

 さっきだって、ケンくんが風邪でも引いたらママに怒られる!って言ってたし、ママに怒られたくなかっただけだよな。


 ちゃんと告白OKしてれば、こんなにもドキドキする楽しい時間が当たり前になってたんだろうに。

 本当に何してくれちゃったの、俺は。はぁ・・・



 六栗を家まで無事に送り届け、一人で家に帰ると、雨に濡れた体を温める為に直ぐにシャワーを浴びた。



 やはり俺は、六栗のことが好きだと思う。

 一緒に居るだけでドキドキするし、六栗みたいな子が恋人になってくれたら最高だよな。


 でも、既に俺は六栗を振った男だ。しかも酷い振り方してるし、今更「やっぱり好きです。付き合おう」なんて都合が良すぎるよな。


 六栗との相合傘の時間は最高に幸せだったが、その分、その六栗を振ってしまった過去の自分の愚行が如何に愚かだったかを改めて思い知り、再び超絶に凹んだ。




 __________________




 一方、六栗ヒナは。



 ケンくん、めっちゃ優しい!

 傘忘れた私が悪いのに、文句も言わずに傘貸してくようとしてくれたよ!


 お互いが「自分が濡れて帰るから!」と主張を続けたけど、更に雨脚は強くなっていくので、最終的にはお互いが譲歩して相合傘で帰ることになった。



 私は男の子と相合傘するのは、生まれて初めて。

 初めてがケンくんと・・・・何コレ!めっちゃ幸せなんだけど!!!


 右にケンくん、左に私が並んで、ケンくんが左手に傘を持ってくれて密着して歩いていると、なんがかポカポカした気持ちになってきた。

 ケンくんの体温が伝わってくるのかな。

 でも密着って言っても、腕組んだり抱き着いたりしてる訳じゃないし、実際の温度の話じゃなくて気持ち的なもんだよね。


 けど、めっちゃ幸せ。ヨダレ零しそう。

 何度か一緒に帰ってるけど、一緒に歩いてて、こんなに幸せな気持ちになれたの、初めて。


 やっぱケンくんのこと、好き。

 大好き。



 でも、ケンくんにとっては迷惑だよね。

 私が傘持ってきてたら、こんな迷惑もかけなかったのに。



 幸せで胸一杯になったり、迷惑かけてる罪悪感で凹んだりしていると、私の家に到着して幸せな相合傘の時間は終わってしまった。


 お礼を言って離れようとケンくんに顔を向けると、ケンくんの全身がウチの玄関の明かりに照らされていた。


 右の肩とか腕が雨でビショビショに濡れている。


 ケンくん、自分が濡れてでも私が濡れない様に傘をずっと私側に傾けてくれてたんだ。

 やっぱ、ケンくん優しくて、めっちゃ格好良いよ。

 そんなケンくん見たら、もっと大好きになっちゃう。


 雨に濡れたケンくんにドキドキしてしまった私は顔が熱くなるのが自分で分かる程恥ずかしくて、ケンくんの顔をまともに見ることが出来ないままお礼とおやすみの挨拶をして、いつもならケンくんが帰る姿を見送ってからお家に入るのに、この日は逃げる様に自分が先に玄関に駆け込んだ。



 お風呂に入り、雨で冷えた体を温めていると、ジワジワと込み上げて来た。


 私、やっぱケンくんのこと諦めない。

 こんなにも大好きなんだもん。

 諦められるわけないよ!


 よし決めた!

 ケンくんと同じ高校目指す!

 それで、中学の間は無理でも高校に行ってから、もう一度ケンくんに告白する!

 絶対にケンくんと恋人になるし!



 まずは、受験までは積極的に話しかけよう。

 1度の失恋くらい、いつまで引き摺っててもしょうがないし、恋人じゃ無くても幼馴染としての仲を取り戻そう。

 それで、志望校聞き出して私も同じところを目指す!


 そうすれば、ケンくんに「勉強分からないところがあるから、教えて?」とか「同じ高校目指すんだし、一緒にお勉強しない?」とか言って、私の部屋に誘い込んで、二人きりになって・・・って受験終わるまではエッチなのはダメ!

 何考えてるの!私は!


 あくまで、受験まではケンくんと同じ高校に入ることが目標!

 ここでまた失敗したら、今度こそケンくんと離れ離れになっちゃうんだよ!




 でも、チャンスがあれば、少しくらいはイチャイチャしたいな・・・






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