第九章 『ミステリー同好会』闇を裂く

マ「まず、救急車がきたほうの事件の真相を話すよ!」

ヒ「救急車がきたのも事件だったのかい?あれは、隣の女子生徒が気分が悪くなって、救急搬送されたんだろう?」

マ「気分が悪くなったくらいで、救急車を呼ぶかい?普通は、医務室で様子を見るだろう?」

ヒ「僕の知っている範囲の情報では、バレーボール部の部活中に、側にいたマネージャーの娘にボールが当たって、その娘が気分が悪くなって、救急搬送されたそうだよ……」

マ「その続きを知らないんだね?彼女は、妊娠していて、そのボールがお腹を直撃した所為で、流産してしまったんだよ!」

ヒ「妊娠?そして、流産?そりゃあ、救急車呼ぶよね!しかし、女子高校の生徒が妊娠?相手は?女子高校の教師なのか?」

マ「恥ずかしながら……、我が校の生徒だった……」

ヒ「ま、まさか?あの噂は、本当だったのか……?」

マ「そう、『女タラシ』ってあだ名より、『一物(まら)から先に生まれた男』のほうが、ピッタリの丸山リョウマが関わっているんだ!妊娠期間から、逆算したら、あいつと白石先生の噂があった時期と一致するんだ!」

ヒ「じゃあ、フタマタを掛けていたのかい?」

マ「そう、少なくとも、複数の女性と関係していたんだ……。それと、問題がもうひとつ……。その流産した女の子なんだけどね……、我が校の先生の娘さんなんだよ……」

ヒ「ええっ!それって、大問題になるぞ!」

マ「ああ、すでに、なっているかもね……」


ヒ「それで、我が校で起きた、自殺と間違えられた事件は?どうなっているんだい?」

マ「よし、最後の七つ目の不思議の謎解きをしよう!事件が目撃されたのは、期末テストの前日だが、そのまた一日前に、事件はスタートしているんだよ!」

ヒ「どんな風にスタートしたんだ?」

マ「その日、午前中に雨が降って、最後の部活ができなくなったクラブがあったんだ」

ヒ「ああ、テスト前日とテスト期間中は、クラブ活動は禁止。前々日は、許可をもらえば、短時間なら可能だったね!それが、雨で、グランド不良になったんだね?」

マ「そう!そこで、あるクラブのふたりが、許可をもらって、屋上でトレーニングをすることにした」

ヒ「雨が小降りになったから、ダッシュや、筋トレは、屋上でやれるからだね?真面目な生徒だね?」

マ「真面目か、どうか……?とりあえず、男子生徒『A』と『B』は屋上にいたんだ。そこへ、時計台の時計の調整に、用務員の長谷川さんが現れた。ふたりは、知らんぷりをして、トレーニングの『ふり』をしていた……」

ヒ「ええっ!ふりをしていたのかい?じゃあ、何のために、屋上に行ったんだ?」

マ「ある『いかがわし』行為をするために、だよ……」

ヒ「喫煙?」

マ「それもある!しかし、その日は、別の目的があったんだ!Aが従兄から手に入れた、『無修正のポルノ雑誌』を観賞するつもりだったんだ!」

ヒ「無修正のポルノ雑誌?そんな物、どうやって手に入れたんだ?」

マ「グァム島旅行に行っていた従兄が、無断で国内に持ち込んだ物のようだ!かなりドギツイ写真だったようだよ……」

ヒ「それを見るために、トレーニングを装って、屋上を使ったんだね?最低な野郎だな!」

マ「その雑誌は、従兄が無断で国内に持ち込む際に、ページがバラバラになっていたようだ。おかげで、犯罪が暴露されることになるんだがね……。彼らの行動を説明しよう!長谷川さんが、時計台に入ったのを見て、おもむろに、バッグから、Aがバラバラになった雑誌を取り出す。ふたりは夢中で、それを眺めていた。場所は、屋上へ続く、階段の出入り口だ!そこを選んだ理由は……わかるだろう?」

ヒ「誰かが、階段を上ってくるのを、いち早く察するため、だよね……?」

マ「そう!その誰かが、思いの外、早く現れた!階段に革靴の音が響いたんだ!『コツコツ、コツ……』と、ね……」

ヒ「ヒェー!ヒッチコックのサスペンスだ……!」

マ「コック?そうか……、ふたりは、そいつを、おっ立てていたのかも、ね……」


ヒ「ゴホン!放送禁止になると困るから、それ以上の『下ネタ』は、辞めようね!」

マ「これ!みどりさんの台本どおりだよ……!ヒッチコックとコックをここで使うか……?」

ヒ「ま、まあ、一応、漫才だから……、ウケを狙って……。まったく、ウケてないみたいだけど……」

マ「シーン、としたところで、話を元に戻すよ!」

ヒ「はい、はい、次の『シーン』だね?」

マ「上手い!やっと、漫才らしいシャレが出た!」

ヒ「今のは、アドリブだから、ね!」

マ「それは、言わんでエイの!ヒッチコックのサスペンスの続きだよ!階段の足音が近づいてくる……。ふたりは慌てて、ジャージのパンツをあげる……」

ヒ「一応、ジャージ姿だったのね?」

マ「そこ、ボケるところと、チャウよ!」

ヒ「もう、笑いを取れるところが、ないみたいで……」

マ「真面目に、漫才、してるん?かい!まあ、いいや!とにかく、慌てたふたりは、手にしていた雑誌のページの処理に困った。階段を下りるわけにはいかない!逃げ場はないから、写真を隠すしかなかったんだ!」

ヒ「おおっ!わかったぞ!伏線があった!用務員の長谷川さんが、時計の修理をしていたんだ……!」

マ「さすが!『ミステリー同好会』の副会長!」

ヒ「まあ、な……」

マ「ふたりで始めたから、ひとりが会長!残りが副会長!」

ヒ「それ!言わんでエイこととチャウの?」

マ「とりあえず、手にした写真を時計台に隠した!」

ヒ「あら?完全にスルーするのね……!」

マ「そこへ靴音の人間が現れる……彼はいった!『おう!真面目にトレーニングしているな!』とね……ふたりが冷や汗をかいていたのを、彼は勘違いしたんだ……」

ヒ「それで、写真はどうなった?」

マ「長谷川さんが作業を終えて、時計台の扉に南京錠を掛けたんだ!長谷川さんは、新たな登場人物に挨拶をして、階段を下りて行ったんだ。ふたりは、写真を取り出すことを諦めるしかなかった……。靴音をさせた男が時計を眺めて、『おぅ!もうこんな時間だ!許可した時間になったぞ!』と、トレーニング終了を促した……」

ヒ「靴音の男は、どうやら、顧問の先生のようだね?それで、その日は、諦めたふたりが、翌日それを取り出そうとしたのか……?」


マ「しかし、彼らには、南京錠を開ける方法がない……。そこで、助っ人を頼んだんだ……」

ヒ「南京錠を開ける?そんな奴、いるのか?空き巣の常習犯かよ?」

マ「鍵を開ける研究をしていた男がいたんだ!不良の桜井タカシさ!助っ人料の代わりが、時計台に隠した写真の一ページだった……」

ヒ「それ、安いの?高いの?それより、桜井が鍵を開けられるってことを、ふたりはどうやって知ったんだい?」

マ「もともと、隠れて喫煙をする連中だからね……。繋がりがあったんだよ!」

ヒ「なるほど、悪のネットワークがあるのか……」

マ「じゃあ、期末テスト前日の、みどりさんが見た出来事の真実を話すとしよう……。雨が降りだす前に、桜井とAとBは屋上に上る。南京錠は、そう簡単には開かない。Bは、しびれを切らして、雨が降りだしたこともあって、『下の植栽のところで、タバコを吸っているよ!』といって、屋上を離れた……」

ヒ「まあ、Bにしたら、写真は自分の物でもないから、それほど、執着心はなかっただろうね……」

マ「そんなところだろう……。その後、すぐに南京錠が開いて、Aは自分が隠した写真を取り出して、一枚のドギツイ奴を桜井に渡す。桜井は、ニヤリと笑って、屋上を後にした。AはBが隠した写真を探す。すると、桜井が、階段の出入り口にまた現れて、『マズイよ!教師が上がってくるぜ!俺は、何気なく、やり過ごして、ズラかるぜ!』と、告げたんだ……」

ヒ「ヒェー!またまた、ヒッチコックのサスペンスかよ!」

マ「そう!パニックになったAは、まず、時計台の扉を締め、南京錠を掛ける。手にした写真をどうしよう?隠す場所は……、自分のナップサックしかなかった。そうだ!下にBがいる!タバコを吸っている時、教師が現れた時にいつも使っている、『証拠隠滅』の方法を思いついたんだ!教師の姿が、階段の出入り口にチラリと見えた時、Aは猛烈ダッシュして、ナップサックを金網越しに放り投げたんだ……」

ヒ「なるほど、その猛烈なダッシュをみどり君が見ていて、自殺行為と勘違いしたのか……」

マ「現れた教師は、その放り投げる場面を見た!そして、今、何気ないふりをしてすれ違った生徒が、桜井タカシだと、気がついたんだ!証拠隠滅だ!と察して、教師は階段を猛然と下って行った……」

ヒ「ヒェー!絶体絶命……!」


「もういい!こんなクダラナイ漫才は辞めろ!」

と、突然、客席からヤジが飛んできたのだ。

「ほう?これからが、クライマックスですよ!松坂先生……」

と、ヒロがニヤリと笑って、客席に立ち上がって、ヤジを飛ばした教師に舞台から声をかけた。

「みんなはどうだい!?続きを訊きたくないかい……!」

まるで、ロックのコンサートの一場面のように、ヒロが舞台の上から、客席を煽(あお)った。普段の『オクテ』からは、想像もできない、格好良さだ!

「続きを訊かせて!」

「辞めないで!」

と、黄色い声援が講堂に響く。みどりとルミの『サクラ』の声なのだが、それにつられるように、

「ヒロ!マサ!格好いいぞ!」

「キャァー!素敵よ!辞めないで!」

「続けろ!続けろ!」

と、男女を問わない声が飛んできて、そのあと、場内にアンコールを求めるような、拍手が鳴り続けたのだった。

「サンキュー!ありがとう!」

しばらく、拍手の渦に浸っていたヒロが、会場を沈めるように、両手を広げながらいった。

「我が校は、民主主義だ!多数決で決めようぜ!続けるほうに賛成の人!拍手!」

ヒロがそう叫ぶと、先ほどの拍手以上の激しい音が、会場に鳴り響いた。

「サンキュー!では、反対の人!拍手!」

そう叫ぶと、誰も手をたたかなかったのだった。

「ようし!多数決で決定だぁ!マサ!事件の解明を始めるぜぇ!いくよぉ!いくぜぇ!」

「オオゥッ!」

と、会場は『矢沢永吉』のロックコンサートのように盛り上がったのだった……

「大丈夫?わたしの書いた、台本とは、かなり違うんだけど……」

と、客席でみどりが心配そうに、隣のルミにいった。

「まあ、後で、ジャイアンが、どう出るかね……。隠していたかった不祥事を、こんな形で暴露されるんだから……。恨まれるのは……、間違いないわね……」


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