第45話 獣人少女

「うおおおおおおっ!」


「ウガアアアアアアアッ!」


獣人少女の体を抱き締めながら崖を転がり落ちるミカラ。


(くそっ!どうする!?俺も精神干渉を・・・いや、危険だっ!)


この獣人少女はすでにベルとかいう男に洗脳暗示を受けているし、その直前に家族を殺されているらしい。

洗脳や暗示の重ね掛けはさらなる負担を強いるし、こういった暗示には何か仕掛けがしてあり、その地雷を踏むと二度と正気に戻れなくなる可能性もあった。


(魔■適性に基づく能力や魔術で屈伏させるのもダメだ!さらなる敵意を抱かせるだけ・・・)


闇に属する魔術は使えない。

そもそも闇系統の魔術は即死系が多くて使い勝手が悪過ぎる。

ならば――― 


「単純な力で、どっちが上かわからせてやる」


ミカラも本能に身を任せる戦い方をする。

封印・・・あくまで意識的なものだが、普段めったにない使わない『●●適性』のスイッチを入れる。


「使わせてもらうぜ?」


ミカラの脳裏に、豪快に笑う女の顔が浮かぶ。


「ぐぅっ!おおおっ!」 


肉体が強化魔術とは違う強化を始める。

明確な数値化が難しくあくまでイメージの話になるが、強化魔術は基本値100に対して10を足したり、2を掛けていくようなイメージだ。

通常のバフが足し算なのに対して、ミカラの体交法

によるバフは掛け算にあたる。

ミカラが抱いた女の強化が飛躍的で、長期間の持続力を持つのはこのためだ。

しかし、今ミカラが使用した『●●』適性に基づく強化は根本から違う。

基本値を100と想定した場合、後ろに0を一つ足すような感覚だ。

2倍、3倍の強化ならなんとかコントロールできるが、10倍、100倍に跳ね上がっていく力は制御不可能な域へと到達する。

使用を続ければ戻れなくなる。

末路として・・・愛し合えば相手の背骨をへし折るような、常に弱体化デバフを受け続けなければ誰とも触れ合う事が出来ない存在となる。

自殺しようにも傷は自動で治り、餓死しようにも膨大な魔力が自動でエネルギー変換して空腹にならず、発狂しようにも状態異常回復により精神の安定は保たれる。

子供を作ろうにも、対等の遺伝子でなければ適合しなくなる。

そもそも死なない。

子孫を残す意味も無い。

その先には、ただただ永遠の孤独だけが待っている。


(俺はそんなバケモノになるなんてまっぴらごめんだぜ!)


そうはいってもミカラも所詮人間。

強化されていく肉体への万能感。

目の前のメスが、洗脳されながらも圧倒的力量差に怯え始めた事への優越感。

獣の本能のような思考がミカラの頭を支配する。

オスとして、自分に歯向かってきたメスへの躾をしなければならない。

このメスを、跳ねっ返りを徹底的に屈伏させ、どちらが上かわからせてやる。

ミカラの拳が獣人少女の腹を撃つ。


「げぼっ!おええっ!」


胃の内容物を吐き出しながら、崖の底をバウンドして転がっていく獣人少女。

恐らく肋骨も折れただろう。

内臓も損傷したはずだ。

ミカラはそのメスの上に跨ると・・・


「ぎゃあっ!ぐぅあっ!」


腕や足もへし折る。

後で治せばいい。

暴れられると面倒臭い。

獣人少女のボロ布を纏っただけのような衣服を剥ぎ取る。

ついでに邪魔な首輪や手枷足枷もねじ切って外して捨てる。

その首輪などを無理矢理引っ剥がした瞬間、獣人少女の瞳に、一瞬理性の火が灯った。


(―――あ、あたし・・・? )


ミカラが一糸纏わぬ姿になった獣人少女の豊かな胸を掴んで地面に抑えつける。


「ひっ痛っ!」


(な、何?コレ・・・)


爪が食い込んだ素肌から血が流れている。


「痛っ・・・だ、誰?」


このメスは俺が倒した。

ゆえに俺の所有物。


「や、やめ―――」


まだ暴れている獣人少女の唇を塞ぐ。


(痛い!腕、足、おかしい!痛いよぉお母さん・・・)


「こ、このぉっ!」


ミカラが口を離した瞬間、獣人少女はミカラの首筋に歯を立てて嚙み切ろうとした。


(き、牙が通じない!?)


鋼ででも出来ているのか、獣人の鋭い牙は男の皮膚に刺さらない。

獣人少女の顎程度ではミカラの首は取れない。


「いや、やだぁっ!」


足を広げさせると痛みで悲鳴を上げているが構わない。


(この男、人の姿した、ナニかだ・・・)


獣人少女が観念した。

目覚める前の最後の記憶は、ある魔族に村を滅ぼされてる場面だ。

魔物の大群に村を囲まれ逃げる隙間も無いなか、穏やかに笑いながら仲間たちを、家族を殺して回っていく魔族の男。


―――貴女が1番強い素体のようですね?少々お時間頂けますか?なに大した事ではありません。その邪魔な自我を失くして頂ければ、後は全てお任せくださいな―――


そこから意識が朦朧としている。

目の前の男に自分から襲いかかったような記憶はある。

きっと、戦わせられ、負けたのだ。


(考えろ。あたし、どうしたい?)


無理矢理抱かれて痛みで悲鳴を上げそうになる。

まだ結婚を許可される年齢になる前だったので、初めてだった。

されるたびに折られた腕や足、肋骨が痛い。

内臓もやられている。

自分はこのまま殺されてしまうかも知れない。

それでも我慢し、応えようとする。

獣人としての常識。

メスとしてオスに挑み、負けたのだ。

オスにはメスに子種を孕ませる権利がある。

少女は激痛に身を苛まれながらも、目の前の男を受け入れようとする。


(もしも、このオスの女になれば・・・仇を一緒に討てる)


基本的に、誇りを取り戻す戦いや仇討ちなどは個人個人で行い手助け無用だ。

無関係な者の手助けはむしろ侮辱になる。

だが、血縁関係となれば話は別である。

自分がこのオスの子供を生むのなら、夫であり族長、群れのリーダーとして、自分の代わりにあの魔族と戦ってもらえる。

このオスがそれを拒否したとしても、このオスの子を生んで強く育てて、あの魔族を討ち取るのだ。

本当なら自分で仇討ちをしたい。

けれど、あの魔族には一族全てでかかって手も足も出なかった。

そして恐らく、なんらかの方法で強く改造された自分をも、この目の前の男は凌駕した。


(痛い、怖い・・・けど、やらなきゃ。あたし、この男の、子供生む)


ミカラは少女の変化に気づいていない。


(このメスは俺のモノだ)


獣人少女が恐怖に震えて耳を寝かせ、尻尾を丸めている。

だがミカラは気づかない。


(わからせなければ。誰が上なのか。徹底的に)


ミカラの乱暴なまでの行為により、獣人少女は意識を失いかけている。


「アウ、アウアッ!」


獣人少女の悲鳴に色が混じり始める。

痛みを和らげるために分泌された脳内麻薬が、獣人少女に未知の快楽を与えてくる。

そうして何度も何度も少女の肉体を屈伏させていると・・・


「・・・・・・アレ?俺はいったいナニを・・・?」


ミカラが突然正気に戻る。

体の下には、恍惚な表情・・・有り体に言えば発情した獣人少女の姿があった。

酷い有り様であった。

手足はもちろん、ミカラの乱暴な行為により、腰の骨も折れていた。

慌てて治癒をする。


「あー面倒臭いからこのままの治癒でいこか」


それからは優しく抱きながら体を癒やしていく。

光と闇の魔力を循環させる体交法。

その辺りで、もう、獣人少女が洗脳暗示から解けている事には気づいていた。

たぶん、首輪と手枷足枷だろうか?

その変に捨ててある破片から嫌な魔力を感じる。

つまり、あの首輪とか破壊した時点で全部まるっと解決してたっぽい?

この少女を本能のままに抱きまくった意味はあまりなかったかも?


(き、気まずい・・・)


仕方無い、やむを得ない事情があったとはいえ、かなり強引に無理矢理抱いてしまった。

意識が飛びかけてたとはいえ、逆らってきたメスを本能のままに蹂躙したのは楽しかった。


(やばいな、あんまよくない傾向だな)


『●●』適性はやはり危険過ぎる。


「すまねぇ、痛かったろ?悪かったな。もう少し我慢してくれな?傷は治すから」


ミカラが素直に謝罪する。

頭をなでて額にキスもする。

ミカラの呼びかけに耳がピクピク動いている。

まだもう少し治癒に時間がかかる。

治ってきたら暴れ出すかも知れない。

しかし、獣人少女は不思議と嫌がらず、治った手や足で抵抗するどころか、その腕や足をミカラに絡めてくる。

優しくキスをしてやると、少し恥ずかしそうに顔をそむける。

そして・・・


「その、もっと、乱暴にして、好きにしていい・・・ よ?」


「あ〜いや、その、すまん・・・」


乱暴に扱うのがミカラのデフォルトと思われても仕方無い。

ミカラが少女を抱き起こし、自分の上着をかけてやる。

姿勢を低くして四足獣のように突撃してくる戦闘スタイルだったためあまり意識してなかったが、かなり小柄だ。

獣人は成長が早いため、もしかするとこの娘、年齢は一桁の可能性が出てくる。

ミカラの上着ではまったく隠しきれていない豊かな胸が飛び出している。

小柄で年も若いだろうが、出るとこは出てる。

尻も抱え心地は良かった。

その獣人少女はミカラに抱きつくと、ほっぺをスリスリさせながらこう告げてくる。


「あたし負けた。もうあたしアナタのモノ。それに、仇討ちしたい」


「仇討ち、か」


あのベルの話を思い出す。


「あたしの家族、仲間、みんな殺された」


少女がポロポロと涙をこぼす。


「仇を討ちたい。でも相手凄く強い。だから・・・」


そこでミカラの顔を真正面から見つめてくる。

耳がピンッと天を突き、ふさふさ尻尾が激しく揺れている。


「あなたの群れに加わる。子供生む。だから助けて」


獣人少女が群れに加わった。


(少し覚えてる。妻たくさん居た)


先程見た何人かは、今の彼女よりも強い女だった。

第一の妻には成れそうに無い。

だがまだだ、妻としての価値は、その当人の力だけではない。


「たくさん生む。たくさんしていいよ?乱暴なの好きでしょ?あたし頑丈だから、もっと痛くしても我慢できる。子供いっぱい作って?」


そうだ。

妻としての価値は、強い子供をよりたくさん産めるかどうかだ。

それにたくさん産めば・・・


「わかった。わかったから。仇討ちも手伝ってやるから」


ミカラとしては、この少女を殺さずに生かすと決めた時点で、ある程度背負い込む事は覚悟していた。

だがそれとこれとは話が違う。

ミカラは少女をお姫様抱っこにして崖を走って登っていく。


「あたし、コーラ!」


「コーラか。俺はミカラだ」


「ミカラ・・・ミカラ!あたしミカラの子供たくさん生む!たくさん生んで!村を復活させる!」


コーラにキラキラ光る純粋な瞳でどストレートなお願いをされ、ミカラは思わず顔を背けたのだった。









「くそっ!強いっ!」


フランが打ち下ろされてくる破城鎚を盾でいなす。


「ふっ!ミカラ殿が戻られるまで耐え抜きましょうっ!」


レベッカの剣が正確無比な軌道を描き、狼型の魔物の首筋の動脈を斬り裂いていく。

鎧の隙間を縫うような攻撃が、装備を整えた事でかえって敏捷性が落ちた敵を屠っていく。

細かい計算やら書類仕事の正確さは、その剣筋にも表れていた。

今までは実力が追いついていなかっただけのようだ。

彼女の理想とする剣は、彼女自身が体現しうる身体能力を得た事により花開いた。

最早近衛騎士最弱の騎士などそこにはいない。

レベッカの通り過ぎた後には、血飛沫と血煙が舞い、魔物の死体が転がるのみ。

 

「い、いいなぁ、私も攻撃特化が良かったなぁ・・・」


盾でとにかく攻撃を防ぐだけになってるフランが羨ましそうにしている。

上を向けば、大木を足場にして上空に跳躍したシェスタが翼竜ごとその上に乗った敵兵を真っ二つにしている。

人間や翼竜の破片がバラバラと落下してくる。


「す、すげぇ」


今までの訓練ではシェスタやレベッカが一本も取れなかった男の近衛騎士が呆然としている。


「すべては、ミカラ殿に愛されたおかげです」


レベッカはうっとりした女の顔で恥ずかしそうに微笑む。


「うぐっ!お、俺達だって寝ないで頑張ったんだっ!気合い見せろお前らあああああっ!」


一晩中ミカラブートキャンプを味わってきた男たちが雄叫びを上げている。


「ちっ。思ったよりしぶといな」


アプスラが不機嫌だ。

思ったよりも殺せていない。

後詰めとして用意していた別働隊も、森の中で他の敵と戦っているらしい。


「兄上、お覚悟を」


目の前には、ナイフを構えた妹がいる。

背後にいるウールンを守るように。

本来なら立ち位置が逆だが、兄の目的がわかった以上、母を前面に出す気は起きない。

ティアのその体捌きは熟練の暗殺者のそれだ。

アプスラですら、魔道具無しのナイフの対決なら遅れを取ったかも知れない。

だがそれだけの事。

ティアには今のアプスラは殺せない。

しかし・・・


(ミカラ様が戻るまでに時を稼ぐ)


ミカラがあんな獣人ごときに手こずるはずはない。

すぐに帰還するはずだ。


「潮時か」


アプスラがつまらなそうに呟く。

アプスラの美点は、戦況を見極める目だろう。

物量で押し潰す予定が大きく狂った。

ここはもう退くべき流れだ。

ならばより勝算の高い立地と状況で崩せばいい。


「なるべく戦火は少なくして手に入れたかったのだがな」


王族や騎士には、守るべき民がたくさん居る。


「民は貴様らを恨むだろう」


「ま、待ってくださいっ!それはどういう・・・」


守る者が居ればさらに強くなる者も稀に居るだろうが・・・王都の国民一人一人を・・・


「貴様らだけで、守れるかな?」


(逃がしてはならないっ!)


ティアがアプスラの眉間に向かってナイフを投げる。

しかし、次の瞬間にはアプスラの姿は消えていた。

空間転移の魔術式。

中継ポイントの座標を決めていれば瞬時に移動可能な闇の魔術。

マジックアイテムか・・・闇魔術の使い手がいれば最も簡単で安全な緊急脱出手段。

アプスラの逃走を合図に、魔物たちや、それを操る魔獣騎士団も逃走を始める。

追撃しようとしてた騎士たちをウールンが止める。


「待ちなさい。今は王都への帰還が最優先です。視界も悪いなか、人間が魔物を追うのは危険です」


頭上に居た翼竜に乗る敵から煙幕弾を投げ込まれ、周囲はもうもうとした煙にまかれている。

この煙が晴れた時には、もう敵は逃げおおせてるはずである。

近衛騎士たちが、それぞれの武器を構え直し、一応は周囲の警戒をしていると・・・


ダンッ!


崖下から、何かが飛び上がってきた。

それは勢いよく着地すると・・・


「持たせたなっ!アプスラァァァっ!このミカラ様が来たからには好きに――――あれ?」


大見得を切ろうとしてキョトンとする。

周囲には煙幕や魔物の死体が残ってはいるが、ほとんどの魔獣騎士団が消えていた。


「・・・ミカラ様。それは?」


ティアがニッコリ笑いながらミカラが抱きかかえる獣人の少女を指差す。


「ミカラっ!ミカラ〜子供つくろ?たくさんつくろ?コーラたくさん生む!さっきみたいに乱暴にしてっ!子供できたら、おっぱいも好きなだけあげるからっ!ね?ね?ミカラ〜〜!」


母乳は栄養素が高く、獣人のオスは強くなるため、孕ませ子供を産ませたメスの乳を飲むのが常識だ。

これは食料事情が悪かった頃の、さらには戦時下での風習みたいなものだが、今も習わしとして残っている。

メスは胸が大きければ大きいほど良いとし、オスはメスを孕ませたら、子供よりも早く乳を飲む権利かある。

コーラは同年代より胸が大きく、自分の村よりさらに大きい部族への輿入れの話も出ていた。

コーラは、自分の胸と、女としての価値に自信があった。

獣人少女が盛ったようにミカラに抱きつき全身にちゅっちゅキスをしたり舌でペロペロしたりガブッと噛みつき歯型をつけている。

コーラが羽織ってるミカラの上着では覆いきれない胸も、ぶるんぼるん暴れまわっている。

その光景を見せつけらているティア、ウールン、フラン、レベッカ、シェスタ・・・茂みの奥に居るケイト・・・ らのジッとりとした湿度120%の視線を受け止めながら・・・


「よし、行くぞ!マルドゥック王都へっ!行くぞみんなぁっ!!!」


ミカラがキリッと決めるが・・・特に誰からも返事は無かった。

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