第2話 試験

 言い出したは良いものの、結局答えを渋る。

 答えが聞けるのだと思い、目を開けて教師の方を見る。すると、困り顔のまま苦笑いし「君は火だね……」といわれる。

 なんか納得しない答えに不安を覚えるも、特に何かできるわけでもなく、言われるままに試験の会場の方へと向かう。

「本当に自分は火なのか?まぁ、確かに火は見慣れてるけど……」

 見慣れてはいるけど、思い入れがあるわけでもない。何せ自分の家は金物屋で、鉄を打つため毎日火はたいいているけれど、その火を好きだった事は一切ない。ただただ暑く鬱陶うっとうしいものだ。

「はぁ、なんか気が乗らないなぁ。どうせなら自分も珍しいものがよかったなぁ……」

「何ため息ついてんの?これから本番だっていうのにっ!」

 うつむきながら廊下を歩いていると、聞きなれた声が聞こえてくる。

「フィー。君も火だったんだ」

「そうよ。私は火好きだもん」

「そうだったんだ。知らなかった」

「だって火って素敵じゃない。赤だったり黄色、オレンジの色が混ざり合って、綺麗に光輝いていてキレイだし、私の髪の色と似てるもの好きなの」

 突然フィーが熱く語りだした。今まで魔法を使いたいという話しはしてきたけれど、どんな魔法を使いたいっていう具体的な話しまでして来なかったから、なんだか新鮮だ。

「そういうあなたはなんで嫌そうな顔してるのよ」

「別に、嫌ってわけじゃないよ……。ただ納得できてないってだけ」

 本当はあまり好きじゃないけれど、彼女の前で言うのははがかられるので黙っておく。

 何なら、自分も珍しい雷とか、はたまたセレーネのような特別な属性の魔法がよかった。

「そっ。でも振り分けられたからには、しっかりやらなきゃだめよ。じゃなきゃ私が先に三つ星に行くことになるからね」

「それだけは絶対に駄目!先に行くのは僕の方だ!」

「その調子よ。お互い頑張りましょ。あっ、私の番みたい。じゃ行ってくるね」

「うん。行ってらっしゃい。頑張って」

 フィーアが行ってからはただ待つだけの時間が続いた。一人一人の試験時間はそれほど長くないにしろ、ただ待つだけというのは退屈である。

 最初二十人ほどがいたが、フィーアと話してる間に三人がいなくなった。それくらいの短い時間での簡単な試験。

 入った扉から誰も戻ってこないので、入口と別に出口があるのだろう。

 フィーアが戻ってきたら、どうだったか聞こうと思っていたのに。暇なのでその間に話しをしようかとリードを探すが、リードは別の属性になったのだろう。あたりを見渡してもいない。

 ずっと畑作業をしてたから、火になる事は無いだろうとは思っていた。けれど、どっちに行ったのかは気になるところだ。土か木か。植物をいじるのが好きだから木なのだろうけど、畑をする以上、土って事もあり得る。

 あれやこれやを考えながら時間をつぶしていたが、一向に自分の番が回ってこない。自分より先にいた人達が呼ばれてるのはわかるが、後から来た人に抜かされていくのは納得がいかない。

 誘導している人に聞いても「自分は案内するだけだから」と言われ何も教えてはくれない。

 結局ドアの前を行ったり来たり、窓の外を眺めたりして時間をつぶすしかなかった。それでも自分が呼ばれる事は無く、することもなくなり壁に背を預けて座りこむ。ボーとしていると、なんだか眠気に襲われてくる。朝早くに起きたせいもあり、いつの間にか寝てしまっていた。次第に身体が傾き始め、支えていた力が抜け床に倒れそうになったところで目が覚める。

「あれ……。寝ちゃってた……」

 目をこすり、あたりを見回すとさっきまでいた人達がいなくなっていて、ドアの横にいた誘導員すらもいなかった。

 どれだけ寝ていたかわからないけど、そんなに時間は経っていないはず。

 焦りがこみ上げてきて、ドンドンドン扉を三回たたく。

「すいません!僕まだ試験してないんですけど!」

 すると、静かに扉は開かれ「さぁ、お入りなさい」といわれる。

 ようやく来たかと緊張感が高まる。口の中は乾き、視界も狭くなった気さえしてくる。

 生唾を飲みこみ、深呼吸をして一歩踏み出す。

 部屋の中に入ると、机の上に小さな蝋燭ろうそくが一つ置かれているだけだった。

 試験のための教師一人と、最初に振り分けの時にいた人がそこにいた。

 何をするのだろうと思っていると、試験官の一人が近づいてくる。

「手をこちらに」

 試験官の人が何かを握った手をこちらに差し出している。

 何かくれるのかと思い右手を前に出すと、小さな赤い石の欠片が手の上に乗る。ふぅっと息を吹きかけてしまえば飛んでいきそうな程小さい。

「それはかつて居た火竜かりゅうの角の欠片です。それを使えばほんの少しの魔法は使えます。それであの蝋燭に火をつけて下さい」

「じゃあ、この欠片のもっと大きいのがあれば、誰でも魔法が使えるのですか?」

「いいえ、その欠片と、この部屋でなければ使えません」

 ちょっとがっかりしたけれど、誰にでも使える訳じゃないと分かり安心する。

「それでは初めて下さい」

 蝋燭に火をつけるイメージをするため、目を瞑り集中する。

「ああ、気を付けてくださいね。こちら側に被害を及ぼすような事があれば、その石はあなたの手を焼きますので」

「えっ!!?」

 びっくりしたあまり、石を落としそうになるも、手から離れる前につかみなおして地面に落ちる事は無かった。

 改めて、石を見つめる。こんなにも小さな石なのに、それほどの力をもっているのだと少し怖く思う。

(要するに、普通にしてれば何もないという事。怖がる必要はない……。落ち着け自分)

 息を吐き、もう一度集中しなおす。

 右手に持った石に意識を集中させ、目を開け蝋燭を見つめる。

 ぽっと蝋燭に火が灯った。大きすぎず、小さすぎないほど良い大きさの火が。

(よしっ!いい感じ!)

 心の中でガッツポーズをする。

「ふむ。悪くないですね。ではその火を大きくして下さい」

「大きく!?ってどれくらいの大きさですか?」

 あれで完全に終わりだと思って油断していた。まだ試験があるとは思いもしてなかった。

「あなたの思う大きさで」

(大きく……。どれくらい大きいのを作ればいいんだ……)

 とりあえずあらゆる大きさの火を想像する。今のものの倍のもの、高さが大きいもの、横幅が大きいもの。

 そして、とりあえずやってみようと思い、危険が少なそうな高いだけの大きな火を作り出す。

 モッと音が鳴った後、天井に届くほど大きな火が蝋燭の先端から燃え上がる。

「な、何やっているのですか!早く火を消しなさい!」

 自分の想像したものと、実際出たものに違いがあり、想像の倍ほどの大きさになっていた。

 自分でもなんでそんなに大きいものになったか分からず、焦ってしまう。

 もうもうとから顔を守るため、教師の人が腕で顔を隠していた。

 パニックになり、教師の声すらも耳に入らなくなってくる。

「は……く!ろう……くの火……を……しなさい!」

 肩をゆすられ、近くで叫ばれる。

 呆然と上がる火を見てるだけしかできなかった。

「おい!早くしろ!」

 両肩をつかまれ、目の前に教師が割り込んで火から目がそれた事でようやく少しだけ落ち着く。

(そうだ、早く消さなきゃ……)

 右手を顔の前に持っていき、石に意識を集中させる。蝋燭とその火が消えるイメージをする。

 音もなく消えたそれらを見て教師が困惑する。

「どうなってるんだ……」

「あなた、すぐに出ていきなさい!」

 顔を守っていた教師に怒られ、入ってきた扉から外に出される。

 こっちから出てきた人はいないのに、自分だけなぜか出された。

(失敗した……失敗した……)

 絶望に頭をクシャクシャ掻いてるいると、手の中に石がまだある事に気が付く。どうせ落ちるなら、このまま持って帰ってしまおうかと一瞬邪よこしまな考えが頭をよぎる。

(いやいや、ダメだろ……。女神様が見ているというのに……。また三年後にがんばればいいだけじゃないか……)

 そう、振り分けはただただ属性へ分けるだけじゃなく、それまで行った行動によって試験を受ける資格があるかということも行っている。悪事又は人格的によくない人に対しては玉の中の光が黒くなり、受験期間があれど一切の資格を失うのである。

 石を返そうと振り向くと、扉が開けらる。

「右手を見せなさい!」

 持っていた石とともに、手の平を上に向け教師の人に見せる。まず石がとられ、それから手をまさぐられながらじっくり見られる。

 眉間にしわを寄せながら何故かと言う顔でこちらを見られる。

「な、なんでしょうか……」

「なんでもない。君はそこで待っていなさい」

 扉が閉められ、中で何やら話している声が聞こえる。何を話しているのか気になる気持ちをぐっと抑えこみ、言われた通りその場でじっと待つ事にする。


「私は反対です。力を制御出来てない!危険すぎます」

「危険だというが、あの子の手は火傷一つしてなかった!それに、あの天井を見てください」

 指さした天井には特に何か変わったところはなかった。

「天井がどうしたのですか?そんなことよりあの子です」

「そう!そこです。何もないんです。焦げた跡も何も」

 そういわれ、もう一度天井を見て、思い出す。あの時確かに天井すれすれに火が燃え盛っていた事を。

 普通であればすすによって黒い焦げ跡があるはず。

「それに、あの子の手も何もなかった。もしあの火が危険だった場合石によって痛みが生じ、自然と手を放して魔法は消えていたはずだ!なのに、痛がる素振りすらなかった。たまにパニックで痛みを忘れる事もある。けれど、意識をした途端にみな石を手放していた」

 そう捲くし立てられて、納得はするものの、やはり入学させる事を躊躇する。

「あの子は今までにいなかった貴重な子だ。火だけでなく、蝋燭すら消えたのも気になりますし、様子を見るだけでも。それに、女神様の加護によって、危険はある程度回避できるはず……」

「それもそうですが……」

 そこまで聞いてもまだ入学させる事を渋る。

「お願いします。不安なら誰か見張りでもつけます……」

「少し待ってください。考えます」


 どれくらい時間が経っただろう。長かったような、短かったような。待っている間心臓がどきどきと脈打つ音が全然収まらないうちに、ゆっくりと扉が開かれ「着いてきなさい」と言われる。

 これから自分はどうなるのだろうと思い、また鼓動が速くなる。

 教師が二・三歩先を歩いている。その背中は見上げるほど大きく感じられる。

 部屋の奥の扉から出て、廊下をしばらく歩いた先の階段を上がると、学園の中庭を一望できる屋上へとたどり着く。

 その屋上の中央に石造で出来た女神様がまつられていた。

 当然ほかの人はおらず、朝早くに来たのに、太陽はもう天辺まで昇っていた。

「さぁ、そこにひざまずきなさい」

 女神様の前に片膝をつき、祈りのポーズをとる。その間に教師が来て石造に手を触れ、祈り、こちらを振り向くと石造の後ろがパァーと光輝く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る