第33話 決断
ルーカスに宛てた手紙をタラッサに預け、アリシアはゆっくりと伸びをした。
縮こまっていた体に空気が行き渡る感じがする。
今日アリシアは一つの決断をした。
数日前から父とも話し合っていたが、なかなか踏ん切りがつかず決めきれなかったことだ。
「ノエも一緒に来ることになるの?」
「旦那様から当面はお嬢様の護衛に専念するように仰せつかってますので」
「そう。親しい人と離れることになって申し訳ないわね」
「あ、今は恋人もいないので大丈夫です」
サラッと個人事情を明かされてアリシアは目を瞬いた。
ノエの性格もあるのか、ノエが護衛についてからまだそれほどの時間が経っていないにもかかわらずアリシアはだいぶ打ち解けていた。
「それならいいけれど。何ヶ月か向こうに行きっ放しになると思うわよ」
「問題ありません。誠心誠意護衛に務めさせていただきます」
わざとらしいくらいに丁寧に言った上にボウ・アンド・スクレープまで披露されてアリシアは思わず笑ってしまった。
気持ちの塞ぐことの多い現状の中でノエの明るさにはずいぶん助けられている。
公爵家の影を感じて以降、カリス家では今後どうするかが話し合われていた。
まずアリシアに宿った子どもについて、アリシアはルーカスに伝えたかったが父に反対された。
ルーカスに伝えるということはディカイオ公爵家の者に知られる危険性を秘めている。
ノエを含む伯爵家の諜報員が調べた限り、イレーネ前公爵夫人とフォティアがニコラオスとフォティアの子を後継に据えようとしていることがはっきりした。
そこにもしアリシアが子を宿していることがわかったら、最悪アリシアごと害される可能性がある。
それだけは避けたかった。
そして同じ理由で、このまま王都に居続ければいずれ子の存在は明らかになってしまうことも。
まずはアリシアが身を隠す必要があった。
アリシアはルーカスと会えていない状態で王都を離れることに難色を示したが、いずれにせよ時間がなかった。
公爵家の影は優秀だ。
どこからアリシアの状態を知られるかわからない。
少なくともアリシアが王都を離れれば、今ほどの監視は無くなるだろう。
アリシアは少しでも多くの時間を稼がなければならなかった。
そしてディカイオ公爵家の問題が片づかない限り、アリシアは領地で出産する覚悟をしている。
ルーカスに出した手紙には領地に戻ることと戻る日を書いた。
しかし実際はその日よりも少し早く王都を発つ予定だ。
敵を欺くにはまず味方からではないが、なるべく相手に正確な情報を与えたくない。
個人宛で届く手紙は開封までは誰に見られることもないが、開封されてしまえばいつ何時誰の目に入るとも限らないから。
ルーカスはどう思うか。
この後王都と領地に離れ離れになってしまうなら合間を縫って会いに来てくれるだろうか。
アリシアはうつむいていた顔を上げた。
もう下を向くのは止めよう。
決めたのだから。
今ルーカスと共にあるよりも、この子を無事に産むことを。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます