第13話 想い
兄の死以降ルーカスの周りは一変した。
新しく覚えなければならない膨大な量の仕事が山積みだった。
今まで公爵家の仕事を少しでも手伝っていたならまた違ったのだろうが、何もかもが初めての身ではさばききれない。
タウンハウスの家令と義母に教えてもらいながらこなしているとはいえ、全く追いついていない状況だった。
とはいえ当主が変わったことは領民にとって関係のないことで、領民に損害を与えることのないようにしなければならない。
ルーカスにとって、今まで近寄ってこなかった公爵家のタウンハウスにいること自体が息苦しかった。
そんな息苦しさから逃れるためか無意識に首元に指を入れてタイを緩める。
根を詰めたところで効率が下がるだけだと分かってはいても、今は一分一秒でも惜しかった。
微かに頭痛のする頭を振り、ふと視線を上げるとローテーブルの上に置かれた手紙の束にアルシアからの手紙があることに気づいた。
一息入れるつもりで侍女にお茶を頼み、手紙を手に取る。
息詰まるような日々の中で彼女からの手紙を読んでいる時だけ気が休まった。
もう1ヶ月以上会えていない。
同じ王都内にいるのだから少しでも会いに行きたいけれど。
仕事のことだけではない悩みがルーカスにはあった。
アリシアからの手紙にはいつものようにルーカスを気づかう言葉と彼女の近況が書いてある。
そして、会いたいと。
「…!」
会いたいと、アリシアからはっきり言われたのは初めてだった。
アリシアからの好意は言葉で、態度でいつも伝わってきたけれど、彼女がルーカスに何かを望むことは少なかった。
ルーカスとしては少しくらいはわがままを言って欲しいくらいだったが、アリシアはルーカスのことを気づかってばかりだ。
すぐにでも会いに行きたい。
突き上げるような衝動にかられ、椅子から立ち上がったところでルーカスは動きを止める。
想う心のまま行動したいけれど、理性がそれをとどめた。
行くか、行かないか。
アリシアを想う気持ちは溢れそうなのに。
どこまでも冷静な部分を失わない自分に、ルーカスはやるせない思いを抱いた。
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