第11話 初恋
アリシアは子供の頃からルーカスが好きだった。
小さい頃のルーカスは活発なアリシアの後ろに隠れていることも多いくらい大人しかったし、幼い女の子が憧れるような王子様ではなかったけれど、何よりも人を思いやる優しさを持っていた。
体調を崩した使用人への気づかい、困った人に差し伸べる手、悲しみに暮れる人へそっと寄り添う姿。
幼い頃から一緒にいたからこそ、アリシアはそんなルーカスの姿をずっと見てきた。
ルーカスが成長して逞しくなり、その美貌にますます磨きがかかって異色の黒髪濃紺の瞳さえも霞むくらい人気が出た時も、アリシアの中には優しくて少し気弱なルーカスがいた。
ルーカスの元に腹違いの兄のニコラオスが訪ねてくるようになったのは、ルーカスが5歳の頃からだという。
アリシアがルーカスに出会った頃にはもうニコラオスは訪ねてきていたが、顔を合わせたのは少し経ってからだった。
おそらくルーカスがニコラオスの存在を受け入れてから初めてアリシアに紹介してくれたのだろう。
ルーカスがアリシアと一緒にいる時に来ることも多く、ニコラオスの性格もあり打ち解けるまで時間はかからなかった。
それでも、貴重な兄弟の時間を邪魔するのは気が引けて、ニコラオスが来ている時はアリシアはなるべくルーカスに会いに行かないように遠慮していた。
そんなある時、アリシアはニコラオスが美しい女性を連れてきたところに出会した。
その女性、フォティアはニコラオスの婚約者だという。
ちょうどニコラオスが学園へ上がる頃で、ルーカスは10歳だった。
学園へ入学してしまうと今までのようには会いに来れなくなるからと、ニコラオスは時間の許す限りルーカスの元に顔を出した。
たびたびフォティアを伴っていたのは、先々のことを考え弟と婚約者の交流を願ったのかもしれない。
フォティアはルーカスにとって初めて異性を意識させる存在だったのだろう。
フォティアの来る日はそわそわとして落ち着きがなく、目が合えば照れたように顔を伏せる。
淡い初恋であり、ルーカスとしてもその気持ちを伝える気は無かったのだろうけれど、彼の中でフォティアの存在が大きくなっていくのをアリシアはすぐそばで見ていた。
ルーカスは人の気持ちに聡い分、自分の気持ちを隠すのに長けている。
だからフォティアに対する気持ちも上手に隠していた。
はたからみれば兄の婚約者に慣れず照れている弟、そんな彼の初々しさを周りは微笑ましく見ている、そんな状況だった。
でもアリシアは気づいていた。
ルーカスのフォティアを見つめる瞳に熱があることを。
それはアリシアがルーカスのことを好きで、誰よりも彼を見つめていたから気づいたこと。
誰かが誰かを思う気持ち。
それは何も悪いことではない。
ルーカスがフォティアに恋をしてその気持ちを飲み込むまで、アリシアはずっとルーカスに寄り添っていた。
彼の気持ちが自分にないことを見続けるのが悲しくなかったわけではない。
でも今までつらいことの多かったルーカスの、柔らかい心ごと包み込みたかったから。
その気持ちを捨てて欲しいとは思えなかった。
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