第10話 ニコラオス
ルーカスが暮らす別荘へ、ニコラオスはたびたび訪れていた。
太陽のような性格の彼は腹違いとはいえ弟のことが気になってしかたなかった。
自身の母親とルーカスの母親の関係性はもちろんわかっていたが、親の都合を子どもに押しつけるのが間違っているとわかるくらいには小さな頃から聡明だった。
もとより弟が欲しかったというのもある。
公爵家の嫡男として、自国のみならず各国の成り立ちや歴史を学んでいる分、ルーカスの容姿に関して偏見もなかった。
黒髪や黒い瞳がトウ国出身者が持つ色であることも、ルーカスがトウ国の血を引いていることもしっかりと理解していたから。
ルーカスが公爵邸へ来ることは無い。
遊びに来ることさえありえない。
それならば、弟に会うためには自分から別荘へ行けばいいのだと思った。
だから、時間を見つけては弟の元を訪ねた。
最初は遠慮していたルーカスも、たびたび尋ねるうちに少しずつ慣れてきてくれた。
おそらく、ルーカスはルーカスの母から言い含められていたのだろう。
自分たちはあくまで住まわせてもらっている身であると。
本来捕虜と同等と思えば身に余る暮らしをさせてもらっているのだと。
ルーカスの母がわきまえているからこそ、ニコラオスの母が表立っては何も言わないことをニコラオスもわかっていた。
そしてニコラオスが別荘へ行くことを快く思っていないことも。
大人の事情で、なぜルーカスは窮屈な思いをしなければならないのか。
恵まれた身の正義感なのかもしれない。
それでもニコラオスはルーカスと親しくなりたかった。
兄と弟として、心の通った兄弟になりたかった。
だから母の心情はあえて考慮しなかった。
弟は小さな頃から周りの者の心の機微に聡かった。
それは無力な中で生き抜くための知恵だったのかもしれない。
顔色を伺うのではなく、気づけばさりげなく寄り添っている、そんな聡さだった。
心の底から楽しんで欲しい。
何も考えずに心のおもむくまま行動して欲しい。
ルーカスにそう望むからこそ、ニコラオスは自身も率先して心のまま行動した。
そして気づけば、ルーカスもニコラオスのことを自然と兄と呼んでくれるようになった。
心を開いた弟は可愛かった。
子犬のように後ろをついてきて、二人で全力で遊ぶ。
ニコラオスが学園へ入学する年までニコラオスの別荘通いは続いた。
学園へ入学してからは手紙を書き、そしてルーカスが王都に来てからはたびたび食事を一緒にするようになった。
変わらず、ルーカスが公爵邸へ来ることはなかったけれど。
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