第8話 古典

「……ラザニア・ピザ・ピラフ・スープ・スパゲッティ・ステーキ」


声のする方に近付いていくと、何か食べ物の名前を羅列して連呼しているのが聞こえる。


ひっそり覗き込んでみると、其所は鉄格子に囲われた檻の中。


声の主で在る剣士の男と、隣に猫が退屈そうに寝そべっている。


まだ、俺の存在に剣士は気付いていなく。

剣士は気だるそうに、溜め息を吐いている。


何だよ、男かよ……


だが、この異世界で初めて出会った人間。


出来れば仲間に成りたいが、檻の中なのは何故なんだ?


この剣士、もしかして罪人か。


ヤモリで身体の小さい自分には通り抜ける事が出来るが、檻の向こうはどうなってるんだ?


ヤモリと云えばコレだろ、試してみるか。


原理は解らないが、壁に手が吸い付く感じ。


何とか壁をよじ登り。

檻の向こうを覗くと、其所は闘技場。


どうやら試合前の剣闘士が、待機中のようだ。


剣闘士は、まだ俺には気付いていない。


他言語理解が在るのだから、きっと会話は出来るはずだ。


例え種族的に話す事が出来なくても、見た目はカワイイヤモリだしな。


男なのは残念だが、人間らしい行動すれば仲間になれるかもしれない。


取り敢えず、もう少し近付いてみるか。


そうして俺が近付いていくと、剣闘士は再び食べ物の連呼を始める。


「あ~腹減ったな、ラザニア・ピザ・ピラフ・スープ・スパゲッティ・ステーキ…… 」


剣闘士がステーキを言い終えたタイミングで、俺と視線が合う。


小さく頭を下げ、挨拶代わりに手を振ってみる。



視線が合ったのは気のせいだったのか、剣闘士は再び食べ物の連呼を始め。


「……ラザニア・ピザ・ピラフ・スープ・スパゲッティ・ステーキ・ヤモリの丸焼き!!」


!?…… ヤモリの丸焼き?

ウォオァ~!!!


剣闘士は俺を掴まえようとして、突然襲い掛かり。


間一髪で、俺は通路に逃げ込んだ。


ハアハア…… 何て奴だ。

酷い目に在った……

転生開始数分で魔物じゃなく、人間に殺されかけるとは。


諦めた様子の剣闘士は悪びれもせず、再び寝そべり食べ物の連呼を始める。


異世界版じゅげむか!!

テンプレでも、古典はもう懲り懲りだわ!


反省して、一生連呼してやがれ。


安心したのも束の間。

この後、生存と誇りを賭けた新たな戦いが始まるのだった。




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